基本情報
にごりえ
1953/スタンダードサイズ
(2001/2/17 BS2録画)
原作/樋口一葉
脚色/水木洋子,井手俊郎 脚本監修/久保田万太郎
撮影/中尾俊一郎 照明/田畑正一
美術/平川透徹 音楽/團伊玖磨
監督/今井 正
感想(旧ブログより転載)
「十三夜」「大つごもり」「にごりえ」の3話からなるオムニバス映画で、当時の文学座構成員が総出演して明治期の女達の悲哀を丹念に描き出す。
「十三夜」は丹阿弥谷津子と芥川比呂志の共演だが、何故か脚本、演出ともに舞台調で、特に三津田健の名科白などほとんど新派(観たことないけど)のようだ。ひょっとするとこのエピソードなど舞台版の脚本をそのまま使用しているのかもしれない。
続く「大つごもり」は貧乏な奉公人(久我美子)が正月に親戚の子供に餅をたべさせてやりたさに主人の金に手を着けてしまうお話で、嫌みな奉公先の奥方を演じる長岡輝子が圧倒的に凄い。その家の娘が岸田今日子というのも凄いが、ろくでなしの長男が仲谷昇というのも濃すぎるなあ。しかも仲谷昇の人間離れした嫌らしさが巧く生きて、恐らく映画での代表作といえるだろう。
「にごりえ」が最も演出的にも見せ所で、全盛期の日本映画の脂ののりきった映像構成と演技のアンサンブルでたっぷりと見せる。淡島千景を主演に据えて、芸妓に魂を吸い取られて妻子を叩き出した男によって不遇の死を遂げる悲劇を、特にろくでなしの男(宮口精二)とその妻(杉村春子)との確執のシーンの演技合戦をクライマックスとして構成している。淡島千景は実はいつの間にか死んでいるという構成の妙が無理心中の無惨さを際だたせる。
なんといっても、宮口精二の駄目男加減が絶妙で、妻子がありながら、しかもどう見ても分別盛りを既に過ぎたくらいの年齢にもかかわらず、商売女の媚びをいつまでもたった一つの慰みに思い続けるその駄目人間の切なさが全身から、その表情から漂い出る役者の力には絶句する。さらにその存在感を受けて立つ杉村春子の巧さにはもはや誰も文句を付けられる人間などありえないだろう。
ただし、文学座づくしの配役は、あまりの濃厚さに胸焼けを起こすこと受け合いだから、その覚悟で観ることが必要だ。