最後の馬券師

最後の馬券師(1) [DVD]

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最後の馬券師(’94)
原作・清水一行 脚本・大川俊道
撮影・下元 哲 照明・渡辺雄二
監督・原田昌樹

感想(旧HPより転載)

 ウルトラマンティガ、ダイナ等で独自のファンタジー路線を展開し、情感溢れる秀作、佳作を連打してその名を不動のものにしつつある原田昌樹の才能がテレビの世界だけのフロックでなかったことを証明する嬉しい一作。

 商社が裏稼業として競馬のノミ屋を始め、その社長にスカウトされた金山一彦は最後の馬券師とも呼ばれる清水紘治とその相棒の藤井かほりと共にノミ屋殺しを成功させて会社を設立、万事順調に進むと見えた矢先、関西の広域暴力団を背景としたノミ屋殺しの片桐竜次に逆に狙われることとなり、藤井かほりは誘拐されて命を狙われる羽目に陥るが、清水紘治はあっさりと片桐竜次に寝返り、見捨てられた金山と藤井は彼らに一矢報いるため最後の大博打を挑む。

 音楽も美術も専任のスタッフがいないという極めて低予算にちがいない制作体制のはずなのだが、映像的には少なくともビデオで観ることに関しては水準以上の完成度で、しかもフルショットと長めのカットを基調とした堂々たる演出は、役者の演技に的確なメリハリを与える柔軟なキャメラワークに特色を発揮し、睦五朗や六平政直といった濃厚なキャスティングを点描しながら、しかも清水紘治という難物を主役として見事に生かし切った点において、特筆すべきものがある。

 そう、これは実相寺昭雄の「悪徳の栄え」以来の清水紘治完全主演作であり、テンポの速い演出よりもじっくりと腰を据えたカッティングやキャメラワークで、その口跡の良さや、独特の知的で屈折した風貌からくる渋すぎる魅力を発揮することができるのだが、演劇はいざ知らず映画の世界ではなかなかこうした不器用な個性は生かされにくいのが現状で、映画の出来そのものは措くとしても、かろうじて実相寺昭雄の作品のなかで役者としての実力を正しく披露することが叶うに過ぎないという不遇を託ってきたのだが、原田昌樹の演出はそうした不世出の才能を巧みに誘導することに成功している。

 かつては相場師として株の世界に君臨しながら、その世界を追われてからは馬券師、ノミ屋と転落しつつ屈折を抱え込み、生き残るためには平気で仲間も裏切るリアリストの、卑劣さよりもプロの強かさを豊かな年輪で包み込んだ男の意気地は、まさに決まりすぎの感さえあり、演出家とキャメラマンが粘りに粘ったと思われる埠頭での藤井かほりとの別れのシーンにしても、ほとんど古いフランス映画のようだ。

 清水紘治の元秘書で愛人でもあった藤井かほりの硬質なユニークな個性が生かされているのも、原田昌樹の演出のたまもの。ただしヌードの許可が出なかったらしく金山とのラブシーンはぎこちないのだが。

 もともと神澤信一の助監督なども経験していたとはいえ、清水紘治の個性を生かし切ることのできる演出家が円谷プロの目にとまらないはずがないのであった。

 ちなみに、ダイナでコックピットのリョウに必ずサングラスを掛けさせていた原田昌樹のサングラスフェチはここでも顕著で、清水も金山も藤井もことごとくサングラス姿で登場する。

 ということで清水紘治ファンは必見。しかも続編では白島靖代、土屋嘉男(!)との競演を実現するという夢のようなシリーズなのだ。ただし、監督が米田彰にバトンタッチしてしまうのは残念。
(98/9/11 V ビスタサイズ

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