まるで日活版「秋津温泉」?でも映像は大映京都の文芸映画だよ!『おんなの渦と渕と流れ』

基本情報

おんなの渦と渕と流れ ★★★☆
1964 スコープサイズ(モノクロ) 115分 @アマプラ
企画:芦田正蔵 原作:榛葉英治 脚本:成澤昌茂 撮影:山崎善弘 照明:高島正博 美術:大鶴泰弘 音楽:黛敏郎 特殊技術:金田啓治 監督:中平康

感想

満州の大連で結ばれた妻(稲野和子!)が乱脈な不倫関係を持っていることを知った夫(仲谷昇!)は性的交渉を絶ち、戦後の引揚げ後も、妻の不倫の証拠を突き止めるべく、押し入れに潜んだりしていたが。。。

■日活がロマンポルノに移行する遥か前だけど、実質的にやってることは変らないよね、という証拠になる一作。有名な作家の小説ではないし、企画意図に曰く因縁がありそう。でも、これがかなり良いんだなあ。

■アマプラの放送原版はどうもリマスターされてなくて、上映用プリント(ポジ)を変換したらしい。そのせいか、日活映画にしてはコントラストが異様に強くて、影が非常に濃い。おそらくは本来の狙い通りではないだろうが、日活にしては比較的ハイコンを狙ったものかもしれない。おかげで、ルックが大映京都のような重厚な雰囲気になった。これは狙いかもしれない。実際、当時の日活のキャメラマン大映京都の仕事を気にしていた。宮川一夫とか牧浦地志とかにライバル心を持っていたらしい。

■それほど繊細でも前衛的でもなくて、物語自体はわかりやすい。独白で全部説明してしまうけど、意外にそれがよく効いていて、映像が耽美的だし、質感が高くて実に良い。金沢ロケが抜群で、しかもステージセットもこの時期にしては妙に豪勢で、このあたりも大映京都を意識ていると思う。まるで西岡善信みたいな美術なのだ。金沢篇で登場する、途中で崩落した橋(あるいは川に突き出した木製の構造物(?))の情景が絶品で、見事なロケ撮影だし、圧巻の心象風景。あのカットだけで、仲谷昇の心理が画になっているから、凄いよなあ。どこで見つけたの?現地に作ったの?

■第一部「渦」は主人公の独白、第二部の「渕」は妻の独白、そして第三部の「流れ」は?という三部構成で、夫婦の各々の心理を解き明かしてゆくが、正直妻の自殺する心理はあまり腑に落ちない。冷淡な夫に不満を抱いて、他の男に肉体的な充足を求めるけど、あくまで心は夫を求め続けていて、心が満たされないから、死にたい死にたいと漏らし続けるうちに、夫が職場の娘と知的なレベルで意気投合して楽しそうにわちゃわちゃしているのをみて、決定的な疎外感を抱き。。。というお話だろうか?あってる?心と肉体のそれぞれのレベルですれ違ってしまった夫婦のお話。だよね?

■その意味では、戦前と戦後を対比して、男女の気持ちの絶望的なすれ違いを描いた、社会派メロドラマの傑作『秋津温泉』を意識している気がする。終戦体験を挟んで、男と女が経験した戦中と戦後の変化、それが、二人を決定的に引き裂く。

中平康の分身?の仲谷昇がここでも薄暗いインテリを精妙に演じて秀逸だし、稲野和子は生涯の代表作だろう。短いカットの中で、ステロタイプな演技を避けて、微妙な心理演技のニュアンスを工夫して演じている。当然ながら、後のロマンポルノの時代にはそんな演技のできる女優はいないのだ。その心理描写は確かに見ごたえがある。後の『四谷怪談 お岩の亡霊』と並ぶ代表作だね。


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