■ただ、ハンセン病に対して島に隔離してしまうことの是非とか、その島で治療と称して行われた断種とか堕胎とか強制避妊とか、今の基準で考えれば非人道的で差別的な施策があり、その後ろ暗さを、当時のこととは言え、医療人なら少しは知っていたはずなどと職業倫理上の批判があり、書物の刊行当時とは異なり、今では単純な美談としては称賛できない雰囲気がありました。そのなかで、敢えていま『小島の春』を「紀行文学」として復刊する意図に興味を持ちました。
■文学としての『小島の春』は、当時も高く評価されたし、すぐに東宝発声映画で映画化企画が動き、1940年に公開されて大ヒット、キネ旬のベストテンで第1位を獲得しています。だいぶん昔に(たぶん、ぶんぱくだった)この映画は観てますが、実際、いい映画でした。戦後なら木下恵介が撮るような、全国民を泣かせる叙情的な風景映画になっていました。杉村春子や菅井一郎が情景の中に溶け込んだリアルな名演をみせ、キャリアの代表作になっています。高峰秀子はこの杉村春子の演技に激しく感銘を受けたと語っているように、実際、非常に上質な演技だったと記憶します。ロケ撮影の秀麗さも特筆に値すると思います。情景は瀬戸内で撮れたものの、ドラマ部分は関東近辺で撮ったそうですが。
■この映画は『ノストラダムスの大予言』にように訳アリで封印されたわけでもなく、東京では今でも時々上映はされているようです。実際、昭和初期のらい病対策とはどんなものだったのか、庶民はハンセン病に対してどんな思い(偏見)を持っていたのか、そんなことをリアルに伝えていると思います。今の基準で考えると、映画の中で行われる行為は、非人道的で、差別的な、間違った対処であることは間違いありませんが、今の物差しで当時の医療知識や病気に対する庶民の怖れといったリアルな実情を安易に断罪して、なかったことにして忘れてしまうのは、最も愚かな振る舞いだと思います。そんな思いもあって、河出書房は復刊したのではないでしょうか(邪推?)。
■原作の復活とともに、豊田四郎の『小島の春』も4Kリマスターして、復活させてほしいと願います。たぶん東宝から移管した国立映画アーカイブセンターにモノクロのネガが保存されているので、きっと保存状態は良いだろうし、綺麗にリマスターすれば、映画史に一定の震撼をもたらすのではないでしょうか。後世に対する文化遺産として、リフレッシュする価値ある映画だと思います。単純にいって、役者の名演によって泣かせる映画に仕上がっているし、戦前の豊田四郎の凄さを再評価することにも繋がるでしょう。
■まあ、東宝はそのような文化的に意義あるけど儲からない事業は全くやる気がない社風なので、有志で資金を出し合って、あるいはクラウドファンディングで資金を募って、ネガを借りて東宝アーカイブの技術者に作業を依頼するという手法になるでしょうか。(それなら参加したいけどなあ)
参考
小松左京の有名な短編「くだんのはは」には『小島の春』の影響があると思うのですが。
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