■あとは、林家正蔵の落語があって、ほとんど戯曲の読み聞かせに近い。それに、どこが面白いのか、ちょっとよくわからない。
■なので、原作戯曲で最終的にどんな着地をするのか気になったのだが、戯曲ではちゃんと納得の行くラストになっている。それも通常の怪談のような明確な結末でも、ツイストの効いたオチでもなく、実に余韻嫋々の幕切れ。いずれ冥土へ向かう宿縁の男女のその後の地獄の道行きが、すべて想像に委ねられて、虚空へ投げ出される。これは実物の舞台を観たいと思う。どんな演出で見せるのか。工夫のしがいがあるというものだ。
■その意味では、戯曲に忠実に描いたらしい青柳信雄の映画版もぜひ観たい。太九郎の役は坂東三津五郎でも、うまく演じられなかったと述懐しているくらいで、ちょと難しい面白い役なのだ。映画では新劇から芥川也寸志を連れてきたのが異色で、新劇の性格俳優にはピッタリな役だから、映画の仕上がりが大いに気になる。ちなみに、日本名作怪談劇場では綿引洪が演じて、あれはなかなかのはまり役だったし、脚本も演出もなかなか味のあるアレンジだった。「俺たち流されてるんだ。地獄に向かって…」のパンチラインは良かったなあ。