岸辺の旅
2015 スコープサイズ 128分
DVD
原作■ 湯本香樹実 脚本■宇治田隆史、黒沢清
撮影■芦澤明子 美術■安宅紀史
照明■永田英則 音楽■大友良英、江藤直子
VFXプロデューサー■浅野秀二 VFXディレクター■横石淳
監督■黒沢清
■三年間行方不明だった夫が帰ってきた。でももう死んでいるのだと語る夫は見せたいところがあると妻を旅に誘う・・・
■黒沢清による夫婦もの映画の佳作。黒沢清は夫婦映画の職人でもあるので、本作はまるで松竹映画のような抒情的なファンタジー映画になっている。突然夫を見失って時間の止まってしまった妻が夫の幽霊(?)と旅することで、しっかりと夫に別れを告げることができるまでを描くロードムービー。その旅先で出会うのがやっぱり幽霊たちというのがいかにもジェントル・ゴースト・ストーリーであるが、演出のタッチはいつもの黒沢清。ただ、本作は恐怖映画ではないので、幽霊描写は基本的にナチュラルテイストになっている。小松政夫の起用はさすがに関西テレビで坂田利夫主演のドラマを撮った黒沢清らしい。
■黒沢清にしては珍しく、かなり大所帯な編成で音楽が録られていて、ところどころ感情過多なところがあるが、たぶん本人は松竹映画を撮っている気分だったのだろう。個人的には何故か山田洋次の『家族』を想い出した。あれはなんとも言いようのないやるせない映画だった。
■本作は黒沢清の年齢なりの死生観が正直に吐露されていて、そのことは身近な人の死を体験した人なら自然と実感されることだろう。浅野忠信が村人に最後の講演を行う宇宙の話など、いかにも黒沢映画でもあるが、実際に身近な死を体験するとみんなあんなことを考えるものなのだ。愛する人の死を受け入れることは自分自身の死の準備でもあって、死は怖くないし、ならば幽霊も怖くはないだろうという、今までの自作に対する批判でもある映画。黒沢清の人間としての成熟が素直に反映していると思う。
■製作は、アミューズ、WOWOW、ショウゲートほか、企画・制作はオフィス・シロウズ。もちろん、文化庁芸術振興費補助金の助成を受けた。