接吻 ★★★☆

接吻 デラックス版 [DVD]
接吻
2008 ヴィスタサイズ 108分
DVD
脚本■万田珠実、万田邦敏
撮影監督■渡部眞 照明■和田雄二
美術■清水剛 音楽■長嶌寛幸
監督■万田邦敏

■「究極の愛が行き着いた、衝撃の結末。」という惹句はいかにも若者向けのコピーだが、ラストはそうしたセンセーショナルなものではなく、当然の帰結だ。ただ、ラストの接吻の意味だけは解釈を必要とするだろう。動機不明の一家惨殺事件を発端とするサスペンスタッチの恋愛劇だが、グロテスクな直接表現は見せず、あくまでサスペンスで見せ切る映画らしい映画。冒頭の帰宅した少女がぐいっと家に引き込まれる場面など、恐怖演出としても出色だ。ドラマの核は、小池栄子、豊悦、仲村トオルの三角関係にあり、その中では仲村トオルが演技的に弱い。「ありがとう」で職人監督的な役割を十二分に果たした万田邦敏なので、この程度の小規模作品では危うげなところは無いが、ラストシーンの演出については、三人を取り囲む係官たちの反応についてもう少し説得力を持たせる必要があるだろう。
■殺人鬼豊悦のテレビ中継の目に瞬間的に何かを感応してしまった地味なOLの異常な愛情とその暴走を増村保造的な盲目の愛の姿として描き出し、小池栄子が天性の贈り物として手にした造形的に歪な笑顔や視線の怖さを要所要所に嵌め込んだ演出の設計力は見事なものだ。豊悦と出遭ってこの世界に対する疎外感を攻撃的に表出しはじめる小池栄子と、自分の犯した殺人の意味を次第に自覚しはじめる豊悦が心理的にすれ違ってゆくところが、恋愛ドラマの見せ所で、実際心理劇としての見ごたえは満点だ。ただ、小池栄子の世の中に対する齟齬感のよって来るところが明記されないため、今ひとつすっきりしないのだが。作者としてはあえて明確にはしていないのだが、その片鱗でも提示しておいたほうが感情移入は容易になるだろう。
■なお、このシナリオには黒沢清的な要素が濃厚に感じられ、黒沢清が撮っていたらという感想を、どうしても抱いてしまう。「アカルイミライ」との類似について意識せざるをえないのだ。というか、「CURE」の再話という気もする。
■製作と制作はランブルフィッシュ

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