椿三十郎 ★★★

椿三十郎
2007 スコープサイズ 119分
TOHOシネマズ二条(SC2)
原作■山本周五郎 脚本■菊島隆三小国英雄黒澤明
撮影■浜田毅 照明■渡辺三雄
美術■小川富美夫 音楽■大島ミチル
視覚効果■橋本満明 合成技術■阿部太郎
監督■森田芳光

 黒澤明の傑作映画の愚直なリメイク。とにかくオリジナルが文句無しの傑作なので、いくらでもリメイク作を貶すことはできるのだが、それほど悪い映画ではないし、それなりに今日本映画でできることを精一杯頑張って作っているので悪い気はしない。森田芳光はときどき理解不能な変な演出をして観客を戸惑わせるが、今回は正攻法を心がけたようで、正調時代劇と呼んでも差し支えないだろう。

 織田裕二と豊悦には敢えて触れないが、傑作なのは大島ミチルの劇伴だ。これぞ映画音楽という分かりやすいメロディを基調として、繰り返しによって劇的効果を生み出す、映画音楽の手本といえる働きぶり。オープニングで、赤い太い文字でタイトルがシネスコ画面にどーんと登場するあたりは、もうそれだけで映画を観たという満足感が味わえる傑作。完全にゴジラ映画の呼吸である。

 ひとつだけポイントを絞って見所を解説するなら、5.1chを生かした音響効果が挙げられる。前半の森の中での立ち回りや、若侍を救出するため心ならずも三十郎が大虐殺を演じる場面など、人の動き回る物音と息遣いの音が館内を動き回り、派手なキャメラワークは控えてあるのだが、臨場感を音響効果で強調する。また、ラストの対決では、オリジナルのあのショックシーンをそれなりに現代的な解釈で殺陣として変更しているのだが、音響効果だけはオリジナルの場面を想起させる派手な効果音が付けてあるので、要注目だ。

 しかし、この映画に対する最大の不満は、チャンバラ演出の至らなさである。大御所山田洋次ですら、特に「たそがれ清兵衛」では入魂といえる斬新な殺陣を見せてくれたというのに、工夫が足りないのだ。

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