緑魔子に特殊メイクなどいらない!怪奇十三夜の力作「怪談夕霧楼」#10

■夕霧楼の女郎お雪(緑魔子)は、心中を図るが、男は逃げ、自分だけ死ぬ。その後、病弱な女房を慈しむ友禅職人源次(高橋長英)は狂ったように地回りの親分をカミソリで斬りつける。何者かがそうしろと囁いたからだ。その後、身辺に若い女の影が付きまとう。あれはお雪なのか?友禅の着物を着た女をつけると夕霧楼に行き着くが、そこには源次とお雪の過去の因縁が待っていた。。。

■脚本:国弘威雄のオリジナルで、監督は映画監督じゃなくて、日本テレビの古手のディレクターの高井牧人。なぜか妙に意欲的な演出で、冒頭から長廻しでグイグイ攻めるし、カミソリで頸動脈を切って鮮血が派手に噴出するのをアップのスローモーションで見せる。その後、緑魔子は血みどろのまま、逃げた男を追って遊郭を彷徨いでて、巷を阿鼻叫喚に巻き込むあたりも、なかなか圧巻。脇役も、小池朝雄久里千春、嘉手納清美と豪華で、特に嘉手納清美はクライマックスで好演する。

高橋長英緑魔子の因縁が徐々に明かされ、夕霧楼のクライマックスはお約束どおりのショックシーンがあり、さらに幽霊屋敷の定番のオチもつくという、なかなかよくできた脚本だし、メリハリの効いた派手な演出と緑魔子ナチュラルな怖さで見せきるという、力作で秀作。緑魔子キャメラにドアップで迫ってくるだけで十分に怖いから、役者力おそるべし。歌舞伎座テレビ室制作の怪談ものは(多分歌舞伎の舞台由来で)とことんグロテスクな特殊メイクが名物だったけど、ユニオン映画はそこにはあまり興味がないみたい。

■おそらく尺に収めるために脚本の一部を編集でカットしているらしく、途中で源次に殺される親分とお雪の関係が全く不明。お雪が殺意を持つ理由が必要だと思うけど。ここがいちばんの欠点。単純に遊郭から女郎が逃げ出さないように見張っているから、恨みを買っていたということ?まあ、最初に逃げた男の行く方も気になるところだけど。

■難点は、ネガ出しリマスターの無神経さで、とにかく昔々のネガに残っている情報を単純に全部強調しようとするもので、発色は平板で派手だし、照明効果の陰影は吹っ飛んでいる。特に、そのへんの雑草まで、植物の緑が全部不自然に新緑のように見えるのは、この時期のリマスターの特徴で不自然。


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