愛の流刑地 ★★☆

愛の流刑地 [DVD]

愛の流刑地 [DVD]

  • 発売日: 2007/07/27
  • メディア: DVD

愛の流刑地
2007 ヴィスタサイズ 125分
TOHOシネマズ二条(SC5)
原作■渡辺惇一 脚本■鶴橋康夫
映像■岩澤英二 撮影■村瀬清、鈴木富夫 照明■藤原武夫
美術■部谷京子 音楽■仲西匡長谷部徹、福島祐子
VFXスーパーバイザー■佐藤高典
監督■鶴橋康夫


スランプの小説家(豊悦)が情交中に人妻(寺島しのぶ)を絞め殺したと警察に通報する。彼は、彼女の「殺して」という願いに応じて殺してしまったと供述するが、それは愛の究極の姿なのか、情痴の果ての凶行なのか、真相究明の舞台は法廷に持ち越されるが・・・
 よみうりテレビの名物ディレクター、鶴橋康夫の映画監督デビュー作は、富山省吾製作による東宝映画謹製の、それなりの大作だが、映画の技術スタッフではなく、テレビの技術スタッフを揃えて、ビデオ撮影が行われた。敢えてラフな視点やキャメラワークで撮られたカットは、明らかにビデオ撮りとわかるが、丁寧に撮られた芝居の見せ場は、ほとんどフィルム撮影と判別がつかない。
 やたらと豪華なキャスティングでお祭り気分が味わえるのは東宝映画の正月第二弾としてはありがたいことだが、ミスキャストが散見され、真面目な鑑賞に耐える映画ではない。ツッコミどころ満載の軽量娯楽映画として気楽に観るのが正しい姿勢だろう。
 まず、根本的に監督本人が書いた脚本がまずいのだが、配役に関して特にひどいには、検事を演じる長谷川京子だ。重要な役のはずだが、演技のひどさで単なる頭のおかしい女にしか見えないのだ。数々の名作ドラマを手掛けてきた鶴橋康夫の演技指導が全く役に立っていないのはどうしたことかと呆れるほどの学芸会演技だ。これに対する弁護士を演じる陣内孝則も何か勘違いしているに違いない妙にハイテンションな漫画的な演技で、長谷川京子と対決する後半の法廷の場面は奇人変人大会と化している。裁判官として登場する本田博太郎が大人しく見えるほどの浮き上がりぶりで、実に寒々しい。寺島しのぶの寝取られ亭主が仲村トオルというのも無理があり、演技の質以前に配役のセンスに大いに疑問を感じる。
 愛欲の果てに辿りつく破滅的な愛の形というモチーフでいえば、容易に増村保造の諸作が思い浮かぶわけだが、90分ほどの上映時間内に女と男を取り巻く環境、心理状態の変化を明快に分析して見せる手法と比較すれば、本作の作劇の手つきの怪しさが明瞭になるだろう。第一、寺島しのぶが破滅に向かって突き進む心理的な必然性を全く描き込んでいないのは、いちばんの問題点だろう。テレビドラマでも鶴橋スタイルとして顕著な、映像や光線の反映を一種幻想的な画面構成の中に取り込んだスタイルはユニークではあるが、映画にとっては邪魔者でしかない。こうした物語を映画化するのは日本映画にとっては得意分野であるはずで、またそれに相応しいベテラン脚本家は何人も思い浮かぶというのに、この有様はどうしたことか。
 それでも辛うじて2時間つきあっていられるのは、豊悦の力演と寺島しのぶの女優としての貫禄が生み出す緊張感が一定のレベルを保っているからで、やはり寺島しのぶ富司純子を背景に置いてスクリーンの中央に屹立している様だけで、日本映画史的な小事件を見てしまったという感慨を抱いてしまうことは事実だ。

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