いよいよ終わりだなあ、人類…怪奇侵略SF活劇の佳作『予兆 散歩する侵略者』

基本情報

予兆 散歩する侵略者 ★★★☆
2017 スコープサイズ (全5話)@アマプラ
原作:前川知大 脚本:高橋洋黒沢清 撮影:芦澤明子 照明:永田英則 美術:安宅紀史 音楽:林祐介 VFXIMAGICA 監督:黒沢清

感想

■映画『散歩する侵略者』のスピンオフドラマ。だけど、ほとんど映画と同じスタッフで撮っているし、仕上がりもしっかり映画レベル。『散歩する侵略者』もかなりの佳作だったけど、本作も劣っていないから、大したもの。

■1話が「起」で2話、3話が「承」、4話が「転」、5話が「結」という構成で、若い夫婦の夫(染谷将太)が、「概念」を奪う宇宙人(東出昌大)のガイドにされてしまったので、それを取り戻そうとする妻(夏帆)が主人公。

■なにしろメイン脚本が高橋洋なので、当然のように主人公は超常能力者。といっても、エスパーではなく、宇宙人が「概念」を奪えない特別な何かを持った人間だ。やってることは1990年代末のVシネマとほとんど変わっていない。けど、ちゃんと新しい恐怖表現をいくつか編み出しているところは、黒沢清の職人としての生真面目さを感じさせる。ちなみに、映画の前日譚というイメージで事前に製作されたのかと思いきや、逆で、映画の完成後に企画・製作されたそう。

■特に4話の渡辺真起子が演じる女宇宙人の登場シーンは傑作で、基本的に黒沢清映画では画面の奥に半透明な壁や膜に覆われた空間があって、そこから怪異が侵食してくるという空間構成になっているのだが、この場面もそのヴァリエーション。ただ単に画面奥から手前に歩いてくるだけで十分怖いのに、彼女が歩くだけで縫製工場の社員たちが次々と脱力して崩れ落ちるスペクタクルな演出が絶品。同じ趣向は、東出昌大が病院で繰り返す。

■その後、厚生省の役人で大杉漣が登場し、宇宙人はどこかの体育館に連行され、尋問を受ける。この場面も、硬めの陰影と、床への映り込みを生かした映像設計がキレイで、ロケ撮影が見事。しっかりスペクタクルな場面になっているので感心した。黒沢清、やればできるのだ(当たり前だ)。やっぱり芦澤明子、上手いなあ。女性なのに、実相寺の『無常』に感銘を受けたという奇特な人で、円谷プロ経由でコダイに加わった中堀正夫のもとに志願して『あさき夢みし』で助手についたというくらいで、こうした素材は当然に相性はいいのだ。

■宇宙人は3話で恐怖の概念を知り(この場面、ホントに高橋洋らしく残酷)、愛の概念を吸収する前に廃工場で殺されてしまうので、宇宙人の大侵略は計画通り始まってしまうのだ。そこから先の顛末は映画に譲るが、こちらの幕切れも悪くない。大侵略の象徴として、雨が降るのだ。ただ、ふつうの雨が。それで、世界の終末を予感させる。黒沢清おなじみの夫婦映画としては映画版が秀逸だったけど、活劇としては本作が優位だ。

■たった7年前の作品だけど、東出昌大は業界を追放されるし、大杉漣はすでに故人。有為転変ですね。一方、黒沢清はますます元気そうで、『Cloud』も楽しみですよ。もう完全にVシネマの復活じゃないかと思いますけど。

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