コミンテルンの陰謀よりも大正期の女性社会主義運動に興味津々『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』

■戦前、戦中期のコミンテルンの謀略について参考文献を引用し、天皇崇拝の保守の立場から、わかりやすく単純化して解説してくれます。というか、著者はあの極右団体 日本会議の関係者らしいので、ご注意ください。

■論旨は相当に単純化されているので、「コミンテルン陰謀史観」と呼ばれますが、なんでもコミンテルンの謀略という単純化は意図していないと著者も釈明しています。そんな見方もできる、こんな可能があった、こんな視点もあるという言い方だけど、なんだか言い訳に感じるし、どうも歯切れが悪い。いろいろ、予防線を張っているようだけど、なぜ?

■そもそも近衛上奏文が何度も登場するけど、あれこそ陰謀史観で、被害妄想、ノイローゼの類とするのが一般的な評価なので、共産主義者の策謀とか、軍が共産主義化しているとか、その懸念が全くなかったわけでもないけど、額面通り評価することは通常やらない。昭和天皇もぎょっとしたらしいからなあ。

■後半の精神科学研究所あたりの記述も、要は筆者が属した組織(国民文化研究会)の前身らしいので、ポジショントークに聞こえてしまうなあ。

聖徳太子の十七条憲法から急に明治天皇五箇条の御誓文に飛び、大日本帝国憲法を奉じるのが真の保守というのも、なんだか飛びすぎでしょう。1000年以上飛んでますけど、その間は保守はどこにいってたのか?五箇条の御誓文聖徳太子を参照したから、聖徳太子に触れるけど、要は明治天皇の御代が真の日本で、昭和に入ってから偽の保守が台頭して、保守領域が分断されたという見立てらしくて、それはそれで新鮮ではあるのだけど、さすがにこのあたりの論理はスカスカだなあ。

■むしろいちばん感動的だったのは、大正期に結成された初の女性社会主義者団体である赤瀾会(あの伊藤野枝山川菊栄が顧問格で参加)の檄文が紹介されているところ。山川菊栄が書いた「婦人に檄す 赤瀾会」(1921年メーデーの際のビラ)というもので、で、こんな文書なかなか見る機会もないので、珍しいし、なにしろ、激しく美しい日本語で、格調が高くて、いまなお素直に心を打つ。

■それに比べると5・15事件の檄文なんて、実に紋切り型で、官僚的なので、さっぱり感心しないけど、こちらは女性の生活実感に根ざした切実さと地に足のついたリアリティがあって、運動に身を投じるその切実さが胸を打つ。あまりに感動的なので、少し引用します。筆者はホントに共産主義とか社会運動が好きなんだなと感じるところです。じゃないと、こんな珍しい文書をわざわざ載せませんからね!

赤瀾会は、資本主義社会の倒壊と、社会主義社会建設の事業に参加せんとする婦人の団体であります。
入っては家庭奴隷、出でては賃銀奴隷の以外の生活を私たちに許さぬ資本主義の社会、私たちの多くの姉妹を売笑婦の生活に逐う資本主義の社会、その侵略的野心のために私たちから最愛の父を、子を、愛人を、兄弟を奪って大砲の的とし、他国の無産者と虐殺させあう社会、その貪婪な営利主義のために、私たちの青春を、健康を、才能を、いっさいの幸福を、そして生命をさえも蹂躙し、犠牲にし去って省みない資本主義の社会―
赤瀾会は、この惨虐無知な社会に対して断乎として宣戦を布告するものであります。
解放を求むる婦人よ、赤瀾会に加入せよ。
https://yamakawakikue.org/wp-content/uploads/2024/06/yamakawakikue_archivesinfo_no4_2406.pdf

いかがでしょう。「家庭奴隷」だし「賃銀奴隷」ですよ。夫じゃなく、「愛人」ですからね。「私たちの青春を、健康を、才能を、いっさいの幸福を、そして生命をさえも蹂躙し、犠牲にし去って省みない資本主義の社会」のくだりはとくに傑作で、痺れる。彼女らは、夫を持ち、工場などで働きながら、子どもを育て、家事をこなしながら、間違いなく寝食を削って社会運動に身を投じたのですね。尊敬しかありませんよ!

■なんだか、筆者の目指す方向から、全く違った地点に着地したようですが、それだから読書は楽しい。大正期の女性社会主義運動については、ちょっと掘ってみたくなりました。伊藤野枝NHKが『風よあらしよ』でドラマ化&映画化したので、山川菊栄の生涯を朝ドラにしないかな?『虎に翼』より絶対面白くなると思うけどな。

参考

maricozy.hatenablog.jp
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そんな時代のあれこれを、佐藤純弥がきちんと(?)映画にしてくれました。『やくざと抗争』傑作です。
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ゾルゲ事件もいろいろ映画があります。
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