■なんとなく消し難くてHDDに残っていたので何度目かの鑑賞だけど、『日本怪談劇場』『怪奇十三夜』『怪談』などをずっと観てきて、見比べてみてもやはり完成度が高いですね。相当な低予算で、配役も妙に小粒だし、派手(グロテスク)な幽霊が出るわけでもないので非常に地味な話だけど、陰々滅々たる叙情がある。このあたりは耽美派・田中徳三の持ち味で、しかもわざわざ撮影に森田富士郎を呼んできて、万全を期している。
■ただ、美術も照明も京都映画のスタッフなので、いつもの大映調ではなくて、TV版『座頭市』のような色を殺したモノクロ調(銀残りみたいな)ではない。同じ東洋現像所を使いながら、こんなにタッチが違うのかと不思議に感じるけど。
■今回気づいたのは、岡本綺堂の関係者で、舞台の監修なども行っていた岸井良衛がわざわざ監修しているところ。かなり本格的にドラマ化したようだ。
■船戸順と渡辺やよいのプラトニックな不義(?)から主家を出奔しての道行きといい、溝口の『近松物語』を意識していて、船上の怪異をステージセットで撮るし、スモークを炊きまくったロケのカットとスムーズに繋がっているのも、さすがに森田富士郎。黄泉の国にむけて二人を乗せた小舟が旅立ってゆくラストカットも、まあ技術的に完璧で神々しいから、やっぱり傑作ですね。