中間管理職は辛いよ!イスラエルと皇帝と嫁の間で板挟みの、俺の名はピラト総督『ゴルゴダの丘』

基本情報

Golgotha ★★★☆
1935 スタンダードサイズ 95分 @アマプラ

感想

■実際に、タイトル通りの内容で、聖書で有名なエピソード集だけど、もっとこぢんまりとした映画かと思いきや、思い切りスペクタクルな大作なので、呆気にとられる。巻頭から作画とミニチュア撮影とスクリーン・プロセス合成の延々と長いカットから始まり、当時のエルサレムの繁栄を見せつける。他にも豪勢な作画合成は多数あり、かなりの特撮映画だし、技術的にもかなりの高レベル。フランス人特撮技師やるね。

■その後は、ユダヤの壮大な神殿をフルスケールで再現したオープンセットで、大群衆を動員して延々とモブシーンを見せるし、神殿内のステージセットも壮大で、結構タガが外れている。

■監督のジュリアン・デュヴィヴィエはヌーベルバーグ派が台頭するまで、古き良きフランス映画の代表監督で、歴史的な名作がいくつもあるし、なにしろ日本映画に絶大な影響を与えた人。ジャン・ルノワールルネ・クレールマルセル・カルネなどのビッグネームと同格に尊敬されたが、日本人が好む、フランスらしい湿った哀愁と叙情を映画の中にふんだんに展開したので、日本の映画人はこぞって真似して、おおいにパクった。特に日活映画は露骨で、いまなら著作権の関係で色々と問題だが、当時は、名誉なことくらいに思っていただろう。というか、そもそもそんなことフランスじゃ知らないか。テレビでは市川森一も堂々とオマージュを捧げていたし、市川森一独特のファンタジーの基礎になっていることは再認識すべきと思う。というか、個人的に大好きなんですよ。マイナーだけど、『埋もれた青春』なんて名作じゃないですか。

ユダヤの祭司たちはナザレのイエスは絶対死刑にしたいけど、ローマから赴任中の総督ピラトはそんなことしたくないし、そもそも理屈が立たないし、宗教的な内輪もめに巻き込まれたくない。でも、ユダヤの司祭たちはそんな煮えきらない態度ならローマ皇帝に直訴するぞと強硬に脅してくるし、ピラトの妻は個人的にイエスの起こす奇跡に感じるところがあって、夫に助命嘆願する。中間管理職としての悲哀を演じるのが、なんとジャン・ギャバンで、言われるまで気が付かなかったよ。自分が捌くのが嫌なので、イエスの出身地ガラリアを治めるヘロデに事件を振って、その後展開される審問の場面も演技と演出的に大きな見せ場で、ジュリアン・デュヴィヴィエの外連味のある演出は見事なものだし、演じたアリ・ボールという俳優の貫禄も凄い。

■全体的にドキュメンタリーのように撮っているところが異色で、おそらく基本は同時録音。なので、モブシーンのガヤはそのままの生録音らしく、これが異様な臨場感を生んでいる。まるで、その場で、そのまま撮った記録映画のように見えるから凄い。それでいて、照明効果はバッチリ効いているから、技術レベルが異様に高い。群衆のガヤの中に、主人公たちの台詞が溶け込んで、浮いていないし、空気感とか立体感がモノクロ、スタンダードのフォーマットからしっかり感じられる。フランス映画の技術レベルの高さをまざまざと示す。

■イエスの姿をリアリズムで描き、端的に言って、その姿が人外の怖さを纏っていることを言外に、というか映像でストレートに表現する。このあたりも後のキリストを描いた映画と異なる姿勢だと感じる。言い方は変だけど、亡霊に見えるように撮っていると思う。聖別された存在というよりも、呪われた存在に見える。神からの祝福は、人間世界では呪いに転じる(人間には呪いにしか見えない)という悲劇を描いているようにも見える。虚心坦懐に映画を観ると、ホントにそんな風に見えてくるのだ。



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