まるでNHK少年ドラマシリーズ?ジュブナイルの意外な良作『あの花の咲く丘で、君とまた出会えたら。』

基本情報

あの花の咲く丘で、君とまた出会えたら ★★★
2023 スコープサイズ 127分 @アマプラ
原作:汐見夏衛 脚本:山浦雅大、成田洋一 撮影:小林拓 照明:岸本秀一 美術:丸尾知行、中川理仁 音楽:ノグチリョウ VFXプロデューサー:山口幸治 監督:成田洋一

感想

■正直舐めてましたが、個人的に水上恒司まつりの一環で観たところ、意外に大胆な良作で驚きました、とさ。

■要はあれ、NHK少年ドラマシリーズのテイストですね。ジュブナイルファンタジー。生真面目なジャンルマニアからは、細部の揚げ足をとる批評が出るはずだけど、何がしたいのか、テーマはなにかというところは意外にもガッチリと強固な構成なので、決して悪くない。むしろ、映画を見終わってからじわじわ喚起するもの、観客に考えさせるものをしっかり残すところは、山崎貴の『永遠の0』より優れているかもしれない。驚くべきことに、ほとんど教育映画なのだ。ラノベの映画化なのにだ!

■脚本も演出も実に着実で、タイムスリップするまでの状況設定も意外にも端的で良い。当然ながらすべてが事務的な説明事項なんだけど、ほぼスッピンの中嶋朋子の生かし方も含めて、かなり手堅い。定石通りに、このヒロインが過去への旅を経て、どう変化するのかがテーマになるけど、そこも実は悪くない。ある意味、何の変哲もない、当たり前の結論なんだけど、妙な説得力があるから、偉い。

■作劇上で大胆なのは、過去の時代に紛れ込んだ少女に対して、誰もどこから来たの?とか、その格好は何?とか、どこかよそから来たと思ったよとか、誰も一切聞かないし言わないことで、このドラマツルギーにはビックリしましたよ。思い切りの潔さというか、信念の強さ。これで行くんや、行けるはず、行ったれ!という割り切りが凄い。そして実際、成立しているから凄い。

■キャストも意外に良くて、水上恒司は期待通りに若いのに落ち着き払っていい味出しまくりだし、特攻隊のメンバーには好漢が揃う。このジャンルでは定番のエピソードも当然描かれるけど、それも悪くないぞ。東映よりは丁寧だ。この良い役者は誰だ?と思ったら、「若君」こと伊藤健太郎じゃないか。良いはずだ。
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■「特攻の母」をモチーフとした役どころを松坂慶子が演じて、当然の好演だし、『俺は、君のためにこそ死ににいく』の岸恵子より良いよね。
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■でもこの映画の一番の欠点は明白で、お話のツッコミどころが云々ではなくて、主演の福原遥が場違いなことなんですね。困ったことに。まいんちゃんはもちろん好きだけど、正直、映画とかドラマの主演の器ではないのだな。残酷だけど、映画とかドラマの映像ものは、「語るな、見せろ」が原則で、見た目が9割。映画的なルックスというものは確実に存在する。それは美醜の問題ではなくて、骨格とか、シルエットとか、見た目の性質、風合いが、映画のフレーム向きかどうかということは厳然と存在する。そこに根本的な違和感がある。何の恨みもないけど、残酷な真実なのだ。では演技が上手いかといえば、むしろ助演の出口夏希のほうが、観客の目を引くはずだし、正直、足を引っ張っている。この配役如何では、もっと優れた映画になった可能性がある。

■あえて難を言えば、意図的かもしれないけど、生活感が希薄なことで、主舞台になる食堂の情景についても、ずっと営業してきて生活感が息づいているわりには、全体的に静止的で、生々しい質感がない。例えば、京都で撮ればもっと質感が出るはずと思うけど、敢えて排除しているのかもしれない。これが、逆に昔のスタジオドラマ的なニュアンスを感じさせる結果になったかもしれない。昔のフラットなビデオドラマの感じね。

■ヒロインが特攻隊に対して現代的な価値観からさんざんツッコミを入れるけど、それもほぼスルーされてしまう。その断絶こそが、この映画のテーマになっていて、ヒロインはそうしたけど、観客に、あんたならどう思う?どうすると思う?と問いかけて終わる、なかなか企んだ映画なので、実は単なるお涙頂戴メロドラマではないのだった。


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