『花あらし』

花あらし (新潮文庫)

花あらし (新潮文庫)

リチャード・マシスンの短編集で”奇妙な味”の愉しみを想い出してしまったので、久しぶりに阿刀田高を買った。阿刀田高を読むのは、何年ぶりだろう。ずっと以前に集中的に読んでいたものだが。むしろ、ハマッていたといってもいいくらいだった。
■本書も、アイディアとしては枯渇を感じさせたり、以前に読んだ短編の焼き直しという印象も無いではないが、それでも一筋縄ではいかない匠の技を使って、それぞれ意外に面白い。短編ながらワンアイディアではなく、アディアの組み合わせで、物語の水準を高めている。
■久しぶりに阿刀田を読んだせいもあるが、どれも微妙なニュアンスを醸し出しており、単純なアイディアストーリーに堕していない。黒井千次の解説も読みがいがあり、「白い蟹」と「花あらし」を褒めている。「花あらし」なんて、そのまま短編ドラマになりそうだが、ラストを安易にCGで映像化されると醒めるだろう。
■「迷路」はネット上で少し話題になった落とし噺だが、説得力を持たせるために、色々と工夫を凝らしているところが読みどころ。主人公の頭が少し鈍いことになっているあたりはずるい気もするが、その職業とか母親の描写に大人目線のリアリティがあり、単なるアイディアストーリーに人間の営みの苦々しい実感を加えている。
■他にも秀作が多く、阿刀田高、まだまだ捨てたもんじゃない。

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