京乱噂鉤爪 人間豹の最期
2009年 国立劇場 ＮＨＫhi
原案■市川染五郎 脚本■岩豪友樹子 補弼■国立劇場文芸部 演出■九代琴松
出演■市川染五郎、松本幸四郎、中村梅玉
■幕末動乱期の京都を舞台に、幕府と薩長を激突させて共倒れを狙い、日本の王になることを図る陰陽師を中心に、明智小五郎と、陰陽師に法力で使役される人間豹と呼ばれる恩田乱学の三つ巴の対立を描く乱歩歌舞伎。しかし前作の「江戸宵闇妖鉤爪」を観ていないと、明智と乱学の確執がはっきりせず、そのほかにも脚本的には腑に落ちないことが多い作品だ。演出は松本幸四郎の変名であるそうな。
■陰陽師が日本の王となり、妖術で京人形に命を吹き込んで妃にしようと企むあたりの倒錯ぶりは乱歩や谷崎的で楽しい。第一幕の終盤で、羅城門のセットが回転しながらせり上がる場面のスペクタクルも見事なものだが、結局その後劇的に活用されないのは解せない。全体に、歌舞伎的なケレン味は勝っているものの、乱学が京都で何をしたかったのかも不明だし、ただの殺人狂にしか見えない乱学の最期を見せ場に据えて、幸四郎が思い入れたっぷりに泣いて見せても、ちっとも感銘しない。
■陰陽師を演じる中村梅玉の悪役ぶりは貫禄たっぷりの名演。市川染五郎は芸風としてはいまひとつ。
