ラディゲと井上敏樹はきっと悪魔!『鳥人戦隊ジェットマン』第9巻:備忘録

■第42話から第47話までの6話を収録。いよいよラストスパートで、悪の組織内部で内紛が怒るのは恒例行事だけど、バイラムの場合はあまりに残酷なので、夢に見そうな気がする。。。

第42話「おれの胸で眠れ!」(脚本:井上敏樹 監督:蓑輪雅夫)はマリア、グレイ、竜の三角関係に試作ロボG2が絡むコスプレ残酷絵巻。そりゃ『仮面ライダー THE FIRST』書くよなあというエグいお話で、全く救いがない。でも、出来損ないとして生まれて日が当たることもなく死んでいったG2の視線に、とっても東映の魂と良心を感じるから、不思議。とことん草の根目線で、名誉も栄光もなく、この世界で祝福されずに生きて死んでいった多くの日陰者や敗残者たちに対する切なすぎる挽歌。

■普通の人なら、泣かせる作劇で視聴者が飲み込みやすいようにオブラートに包んで提示するんだけど、そんなのリアルじゃないから、ありのまま残酷に投げ出す。おれたちみたいな、この世に居場所のない半端者たちの行く末は、誰にも知られず看取られずひっそり孤独に死んでゆくだけなのだ、と身も蓋もない現実を突きつける。しかも子どもに。いや、きっと一番刺さったのは、当時子ども番組を観ていたオタク層だよね。G2はお前のことだよ!

■グレイに抱かれて、マリアが「冷たい」と払い除ける残酷劇も凄いし、ノリノリの勢いって凄いな。本シリーズ最大の問題作。

第45話「魔神ロボ! ベロニカ」第46話「勝利のホットミルク」(脚本:井上敏樹、監督:雨宮慶太は魔神ロボ・ベロニカを巡る特撮大会。ミニチュア特撮は本編班の仕事だけど、オープンにミニチュアを持ち出して撮るのが雨宮慶太のこだわり。ほんとは石膏ビル破壊もやりたいところだろうが、そこまでの予算はない。いちばんネックなのは、キャメラマンがミニチュア特撮のツボをあまり理解していない点だけど、そこは雨宮慶太がしっかりと指示したに違いないね。樋口真嗣は本シリーズの佛田洋の撮ったアクロバティックなショットや雨宮慶太のミニチュアオープン撮影に触発されて、それが平成ガメラの作風にも繋がっているはず。そしてこのシリーズ、やたらと水着のお姉さんが登場するのが恒例で、そのあたりはバブルの残照が感じられて景気が良いぞ。

第47話「帝王トランザの栄光」(脚本:井上敏樹、監督:東條昭平)は極め付きの鬼畜回。ラディゲがついにトランザを駆逐する。井上敏樹、若い頃こんな話を書いていたのかと呆気にとられました。一応90年代に入っているんだけど、東映はよくあのラストを許したなあ。ホントに凄くて顎外れる。まあ、ジェットマン凄いとは聞いていたけど、ここまでエグいとは。戦隊内恋愛劇みたいに聞いていたけど、そこじゃなくて、人間の心を引き裂く悪を描く試みじゃないか。つまり、純粋悪としての悪魔を描くぞという意志。その名は裏次元伯爵ラディゲ、利用できるものは容赦なく利用して切り捨てる男。当然、良心は微塵もない。

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