『交渉人』

交渉人
(THE NEGOTIATOR)

感想(旧HPより転載)

 警察年金(!)の積立金を横領し、その証拠を握った同僚警官を殺害したとして逮捕された人質交渉人(S・L・ジャクソン)が無実を訴えるため人質を取って籠城し、他の地区の交渉人(ケビン・スペイシー)を指名して、事件の真相を探ろうとする。

 もっと大味なアクション映画かと思いきや、かなり念入りに仕組まれた脚本のおかげで、なかなか立派なサスペンス映画になっている。まあ細かいところを突っ込めばアラはあるが、一応頭を使った脚本になっているから大目に見よう。おそらく三谷幸喜がどこかでパクるに違いない。

 もっとも上映時間139分というのはあまりに長大すぎで、物語の種類、性格、人物設定等から考えればせめて2時間程度にまとめるべきところだろう。そもそもケビン・スペイシーが登場するまでが長すぎるのだ。ただ、139分のあいだ高度な緊張感を持続させる演出、編集テクニックには、素直に感心する部分もあるのだが。

 本当ならばいきなり籠城事件が発生し、犯人の正体と年金横領(!)の濡れ衣については徐々に明かしてゆき、事件の真犯人は警察上層部で、それゆえ躍起になって犯人を殺したがっていることが判明してくるという段取り(後説というやつ)のほうが、映画はコンパクトにまとまるだろう。まあ、人質交渉人が人質を取って立て籠もるという逆転のおもしろさが弱くなるかもしれないが。

 しかし、意外な真犯人の登場で社会派的な批判精神や反抗精神のおもしろさが失われ、あまりにちっぽけな事件に落ち着いてしまうのは、なんとももったいない気がするのも事実で、個人が舌先の交渉術だけを頼りに警察組織全体を敵にまわして反逆するといった60~70年代的な方向性に向かわないのは時代が悪いとはいえやはり惜しい。

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