ジャコ萬と鉄

基本情報

ジャコ萬と鉄
1949/スタンダードサイズ
(2001/12/15 BS2録画)
脚本/黒澤 明,谷口千吉
撮影/瀬川順一 照明/若月荒夫
美術/北 辰雄 音楽/伊福部昭
特殊技術/渡辺 明 合成技術/泉 実 合成美術/岡田明方
監督/谷口千吉

感想(旧HPより転載)

 北海道のニシン漁場に現れた片目のマタギジャコ萬(月形龍之介)は強欲な網元(進藤英太郎)に船をだまし取られてソ連に置き去りにされたことを恨んで、ニシン漁を妨害して「血の涙を流させてやる」と宣言するが、死んだと思われていた網元の息子鉄(三船敏郎)がふらりと帰り着き・・・

 「銀嶺の果て」に続いて黒澤明脚本で厳寒の僻地を舞台とした荒々しい男たちのドラマが展開する。

 デビュー間もない三船敏郎の純情ぶりと青年らしい清冽さが華奢ながら精悍な肢体に溢れて、なんだか観ているこちらのほうが気恥ずかしいくらいだ。漁場の宴会で披露する奇天烈な唄と踊りはれっきとした伊福部節の珍品。実際このシーンはこの映画の白眉といえるのではないか。

 この時期野性的で強情なヒロインを演じていた浜田百合子がジャコ萬にぞっこん惚れ込んで邪険にされながらも執拗にまとわりつく情の強い女を演じるが、北の果ての漁場にしてはやけに化粧が濃いのは考え物だ。特に美人というわけでもないし、東宝争議でスターの去ったこの時期の東宝の女優陣の層の薄さを物語っているのだろうか。

 しかし、意外にもこの映画で最も役得なのは通称”大学”と呼ばれる正体不明のままニシンに埋もれて死んでしまう虚弱な若者を演じた名さえ思い出せない役者で、終戦後の日本の食糧事情を改善するためと主張して病み上がりの身体を押してストを破り、漁に出る場面がこの映画の本当の山場だろう。ここにも東宝争議の影響が影を落としているようで、実に興味深い。

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