ウォーク・ザ・ライン 君につづく道 ★★★

WALK THE LINE
2005 スコープサイズ 136分
DVD


ウォーク・ザ・ライン 君につづく道 特別編 [DVD]
 アメリカのカントリー音楽に何の思い入れも無いので音楽映画としては若干苦しいところがあるが、ホアキン・フェニックスリース・ウィザースプーンの熱演は理解できるので退屈はしない。
 なので、音楽映画というよりも、ジョニー・キャッシュとジューン・カーターの曲折に富んだ芸人人生の遍歴を描き出した映画として興味深い。互いの音楽的な来歴や人生にアメリカならではのキリスト教的倫理観との軋轢を背景として織り込んで、家族や隣人、地域社会の、彼ら破天荒な人生を送り、キリスト教的倫理観に背く歌に対する蔑視とも呼べる感情をクローズアップして、彼らの突き刺すような視線が常に主人公たちを心理的に追い込むという演出意図に、監督の知性を感じさせる。特に、ロバート・パトリックが演じる、貧しく実直だが偏狭な父親との確執についてよく描き込んであり、ラスト近くでの父子対立の場面が際立った見せ場になっている。ロバート・パトリック独特の冷たい視線の有様をよく生かした巧い配役だ。
 一方のジューン・カーターは離婚を繰り返することで古いキリスト教的倫理に反する存在として描かれているが、実の父母よりも彼女の父母のほうがジョニー・キャッシュの存在と苦悩を共有することができるというクライマックスの作劇は、大きな劇的カタルシスをもたらすと同時に、芸人同士ならではの共感と連帯を描き出して感動的だ。

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