『鬼婆』

基本情報

鬼婆
1964/CS
(2004/8/27 レンタルDVD)
オリジナルシナリオ/新藤兼人
撮影/黒田清己 照明/菱沼誉吉
美術/新藤兼人 音楽/林 光
監督/新藤兼人

感想(旧HPより転載)

 南北朝の動乱の頃、人里はなれた薄が原で落ち武者を殺して生き延びている義母(乙羽信子)と嫁(吉村実子)は、戦に出た息子が殺されたことを知る。だが、知らせを持ち帰ってきた男(佐藤慶)と嫁が懇ろになってしまったことを知った義母は嫉妬に駆られ、般若の面をつけて、男のもとへ走る嫁を阻止しようとする・・・

 近代映画協会のスタッフが千葉の湿地帯にプレハブ小屋を建てて合宿方式でロケして完成させた低予算映画だが、ふんだんに取り入られたモノクロ撮影による薄が原の情景が映画の主題を超えて忘れがたい印象を刻み込む奇妙な映画だ。

 吉村実子が脱ぎまくるのはいいとして、乙羽信子まで半裸で演技するは見ているほうが決まりが悪い。一方、精力満々の男臭さを発揮するのがこの頃ウエイト増量中だった佐藤慶で、大映時代劇のステロタイプな悪役の役作りとは比較にならない演技の幅を見せて、生き生きと飛び跳ねてみせる。

 物語としては非常に単純なもので、100分は明らかに長すぎる。三隅研次にでも撮らせておけば、70分程度ですんだはずだ。実際、新藤兼人が脚本を書いた「鬼の棲む館」は76分しかないのだ。

 実際、新藤兼人なので、怪奇映画というわけではなく、落ち武者狩りの凄惨さや残酷さも、主人公たちの生き抜く力、生命力の発現として捉えられており、残酷劇でも恐怖劇でもない。般若の面が外れなくなるという展開もラストになってやっと登場するもので、生と性の力強さを謳った民話劇といった色合いが濃い。

 ちなみに、このDVDはモノクロの画質も万全で、新藤兼人佐藤慶の両老人が抜群の記憶力を発揮するオーディオ・コメンタリーが、映画そのものよりも面白い。おまけに、佐藤慶が暇に任せて撮った私家版8ミリまで収録されており、実にマニアックな仕様だ。しかし、新藤兼人のファンって、そんなに多いのだろうか? 

コメント

(2023/5/18記)
新藤兼人の映画って、観始めると意外とハマるんですよね。なにしろ監督作だけでもかなりの本数だし、各社に書きまくった脚本に至っては誰も全貌を掴めないと思うけど。

海外でも特集上映があり、映像ソフトが発売されているし、なぜかベニチオ・デル・トロが崇拝しているので、意外と普遍性があるのだ。

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