感想(旧HPより転載)
秀吉暗殺に失敗し釜ゆでにされたはずの石川五右衛門(市川雷蔵)は生きていた。豊臣一族を根絶やしにするため、秀吉(東野英次郎)に実子秀頼が誕生したことで疎んじられる養子秀次(成田純一郎)を煽って秀吉との確執を招きよせて詰め腹を切らせ、さらに秀吉の寝所に侵入することに成功するが。
前回同様自らの手を汚さずして目的を遂げる忍者の極意を忠実に実行する五右衛門だが、今回の秀次は光秀のように劇的な謀反を起こしてくれるわけでなく、ただ謀反の嫌疑をかけられて秀吉から切腹を命じられるだけだし、秀吉に対する五右衛門の復讐も前作の信長への無惨凄惨なものではなく、老境で初めて我が手に抱いた幼子を溺愛する病身の老いぼれに対する嘲笑でしかなく、前作と同様の作劇を再利用したことが裏目に出て、劇的な高揚感を欠いた凡作となっている。
秀次と秀吉の確執を煽っても肝心の秀吉への復讐には直接繋がらないと思うのだが、”悲運の関白”秀次を実質の主役に据えたいという企画者ないし脚本家の意図が働いたものだろう。
こうしたシリーズものへの出演は珍しい若尾文子が淀君を演じるがドラマ上重要な役ではなく顔見せ程度の扱いなのも全くもったいないし、肝心の”悲運の関白”秀次が成田純一郎というのもキャスティングが弱すぎるだろう。
また、森一生に忍者アクションを演出させるというのもかなり無理がある話で、アクションシーンになるたびにすきま風が吹き始めるのは困ったことだ。確かに、こうした素材は池広一夫や三隅研次(このシリーズは撮ってないが)あたりが適任だろう。
アクションのダイナミズムも政争劇のサスペンスも不発の凡作。思惑買いが見事に外れた中古LD。
(99/3/27 シネマスコープ 中古LD)