■日本がインドネシアに巨額の投資を行っていた時代、現地で反日運動が盛り上がり、油田などの権益が侵されると、政府は自衛隊の派遣を決定する。主権者も知らない間に。
■ユニークなのは、そんな状況下で、市井の民を主人公として、思想弾圧、自衛隊のクーデター、軍事政権樹立、徴兵制復活の流れを点描する視点の置き方だろう。なので、連作短編集という形態になっている。つまりアマプラで観られる『零日攻撃』と同じ手法。そして、発表雑誌が中間小説雑誌なので、風俗小説のスタイルになっていて、性描写がかなり執拗で、そこに時代を感じる。
amzn.to
■戦時中を知る中年女が、娘(銀座のクラブのママ!)の男が自衛官と知って愕然とする「朝の靴」、広告業界の男が、これから出す流行歌はマーチ風にしないと当たらないと見切る「マーチ風に」、反戦活動家が変電所を襲撃する「東京大停電」、学生紛争時には過激派学生から突き上げられた老教授が反戦地下活動に奔走して挫折する「青い柿」、ゼロメートル地帯が水没し、自衛隊薄桜会の小規模クーデターが失敗する「堤防決壊」、自衛隊のクーデターが深く静かに進行する「クーデター」、そして若者はさも当たり前のように徴兵検査に応じて、何もしなかった戦争を知る親世代を責める「徴兵復活」。戦争は、すぐそこまで来ているだろう。
■「徴兵復活」で、徴兵検査を受けて、バッジをもらうと、いろんな割引特典を受けられるという設定は実にリアルで感心したな。多分、数年後くらいには、そんな光景が現前するのではないか。志願して予備自衛官に登録すれば、様々な割引やポイント還元の優待が受けられるとすれば、貧しい若者はこぞって手を上げるだろう。現政権は今から、そう仕向けているよね。
■解説の権田萬治(懐かしい…)が、まあ誰しも感じることを綺麗に纏めてくれています。敢えてそのまま引用しておきましょう。
「いずれにしても、日本軍国主義復活の恐怖を告げるこの小説が、いつまでも現実のものとならず、永遠に想像の産物である一編の未来小説であり続けるように祈るのは決して私一人だけではあるまいと思う。」
そうだといいけど。。。

