年寄が始めた戦争で、若者が大勢死んだ…総力戦の悲惨を描く傑作『西部戦線異状なし(完全版)』

基本情報

All Quiet on the Western Front ★★★★★
1930 スタンダードサイズ 135分 @NHKBS

感想

■大昔にNHKで観ていたけど、お話はあまり憶えていなかった。なにしろ地味だからね。でもラストだけは鮮烈に記憶に残っていた。今回は全長復元版で、デジタルリマスターで生まれ変わったピカピカの原版。ちょっとやりすぎくらいにリマスターしていて、当時ですらこんなにパキパキした輪郭じゃなかったのでは?と思う。それにしても、ディテールとスペクタクルがえらい鮮烈で、CGは当然として合成すらあまり使用せず、フルスケールで再現して、そのまま記録する撮影スタイル。奥行きの作り込みの空間量がえげつないし、戦場を横移動するキャメラも豪快で、戦場の記録映画にしかみえない。今観ても古びていないから凄いぞ。

■人類がはじめて経験した総力戦、第一次世界大戦に志願したドイツの学生たちが新兵からベテラン兵士として成長してゆくと同時に、西部戦線の地獄の塹壕戦で、櫛の歯が欠けるように、発狂したり、負傷して脱落したり、戦死してゆく姿を、きわめて厭戦的に描く。正直、戦争映画としての完成形で、これ以上なにも付け加えるものはないね。驚くべきことに、1930年時点で、戦争映画はすでに完成していたのだ。言うべきことは言い尽くされている。東映の『二百三高地』だって、大きな影響を受けている。笠原和夫は特に言及していないけど、舛田利雄は当然イメージしているはず。
maricozy.hatenablog.jp

■昔の日本映画では銃撃が閃光弾(花火)で描かれることが多くて、さすがにあれは間抜けに見える。本作ではそんなもの一切見せない。ほんとはスピルバーグの映画みたいに、閃光が流れるのだろうけど、別になくても成り立つのだ。夜間に鉄条網を設置する作戦で、地平線の向こうに明滅する砲弾の閃光とか照明弾の降下する不気味な情景とか、完璧な映像表現だと思う。

■地獄の塹壕戦で兵士がいかにして人間として変わってゆくか、を実録に基づいてリアルに描き、なんなく当時のアメリカの厭戦気分を伺わせる。と思ったら、1930年代は「赤い10年」と呼ばれて、アメリカが左傾化した時期らしい。なにしろ世界恐慌のさなかだから、そりゃそうだね。そんな時代だからこそ生まれたストレートな反戦映画(というか厭戦映画)だよね。年寄りが始めた戦争で、若者が大勢死んだ。国のために死ぬのなんか嫌だ。年寄りに騙されるな!主人公がストレートにそう言いますからね。テーマを台詞で語るのは映画作法として悪手であると言われるけど、必ずしもそうでもなくて、しかるべきところにしかるべき台詞がないと、逆に気が行かないことはある。経験的にそう感じる。

■主人公は、故郷の母親の元にすらもう自分の居場所がないと感じて、前線に戻り、同じ境遇で生死をともにした戦友と再会したいと願う。その気持ちの変貌ぶりが、作劇の核心だし、残酷すぎるし、リアルで戦慄する。間違いなく傑作。


© 1998-2024 まり☆こうじ