上司のメンタルがヤバかった!組織における普遍的な恐怖を描く『ケイン号の叛乱』

基本情報

The Caine Mutiny ★★★★☆
1954 ヴィスタサイズ 124分 @NHKBS

感想

■ずっと気になっていたのに、後回しになっていた本作、やっと観ました。思っていたのとはちょっと違って、新鮮な驚きを感じました。

■老朽掃海艇ケイン号に赴任した艦長(ハンフリー・ボガード)の指揮には致命的な凡ミスが多く、どうもメンタルな問題を抱えているらしいけど、大型台風に遭遇した夜、操艦を巡って部下と決定的な対立が起こり。。。

■実にオーソドックスによくできたシナリオで、若い新任士官を狂言回しにして、彼の乳離れのエピソードでサンドイッチ形式にして、事件の顛末と核心を描く。正直、個別にそのエピソードが良く出来ているかといえば疑問で、正直俺でも思いつくし書けるけど、構成の問題として定石の見事な処理。実際は彼の成長と変化が描けているかと言えば、実はバッサリ省略されていて、一番むずかしい部分は手を付けていない。というか、彼はあくまで狂言回しなので、当然割愛なのだ。

ハーマン・ウォークの小説は実録ではないけど、取材の結果だろうから、完全な空想でもあるまい。とにかく、1950年の段階で、戦争における戦争神経症的な精神問題を抽出したのは圧巻。だからピューリッツァー賞をとったのだろうけど、よくもまあ、描いたよね。日本ではとうていありえない。

■実際、アメリカでは復員した兵士にPTSD的な症状が続出して、精神分析とか精神医療がおおいに注目された時期。一般の印象では負け戦だったベトナム戦争の時期に、再度注目されたけど、第二次大戦後にもひとつのブームがあった。アメリカで精神分析をモチーフとしたニューロティック映画が流行したのも、多数の復員兵が心的外傷を負ったためといわれる。

■しかもこれ、時代を超えた普遍性があって、会社員とか公務員でお勤め経験のあるひとには絶対刺さる映画。こんな上司は、絶対実在する。その経験を持っている人は多いはずだから。明らかに何かの心理的な偏向や執着を持って、権力を行使している人。当然、軍隊にも存在した。精神病と精神障害は違うんだぞ、というところまできちんと描かれているから、アメさん凄いわ。終戦直後ですよ。当時の日本では一般にそんな概念じたい知られていないし、軍隊なんて大和魂しか物差しがなかったのだ。

■それに注目しただけでも凄いけど、終盤の軍事裁判の展開も凄くて、副艦長を弁護した戦場経験のある弁護士の私情の発露が、劇的にも圧巻。仕事だからお前ら弁護したけど、ヤツ(艦長)は歴戦の勇士で、戦地でのストレスでおかしくなった(ホントかな?)んだから、俺の気持ちは艦長に同情してるんだぞ!というカウンターがエグい。

■しかもここには、いち早く艦長の異常に気づいた小説家志望の通信兵が絡んでいて、原作者の自画像でもあろうが、これを辛辣に批判する。実際、この男はハルゼー提督に相談しようと言い出したのに直前で翻意するし、最終的に副艦長を見捨てるし、小心者で、保身に汲々としている。糾弾されて当然の男だけど、映画を見ているわたしたち臆病者を糾弾している。艦長にメンタルな問題はあった。でも、それは戦争を戦い抜くなかで負った心の傷であって、いわば名誉の負傷なんだ。という主張。だから、軍隊が協力して映画化もできたわけーーつまり、奴らは戦争して勝てる相手じゃないのだ。レベルが違う。残念ながら。

■とはいえ、あの艦長が戦争神経症でそうなったのか、生まれつきのボーダーラインなのに組織が見逃したものなのか、分かったもんじゃないよ!とひとこと突っ込んでおこう。

■クライマックスの台風シーンがこれまた圧巻なミニチュアワークで、完全に東宝特撮のレファレンスになっているはず。大プールの大波のうねりとか、ちょっとやりすぎなくらい派手に翻弄される艦船ミニチュアとか。しかも、かなり延々と長いし、艦船ミニチュアが意外と小さそうだけど。

■ただ気になったのは、妙にカラーの発色が悪いことで、人工着色かと思った。古いアメリカ映画のリマスター技術はえげつないので、本来ならもっと高画質なはずなのに、色がズレている気がする。ネガの保存が悪かったのか?名作なので、もっと綺麗なマスターで観たいなあ。


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