「死ぬな、殺すな、生きのびよ」非戦災都市の終戦後の、これがリアル!西川祐子著『古都の占領』

■なにしろ大著なので、とりあえず斜め読みですが、大変おもしろい本でした。非戦災都市としての京都の終戦直後の生活がいろんな角度からリアルに蘇ります。

終戦直後の情景と言えば、焼け野原となった東京の闇市の風景とかがなんとなく一般的に想起されるところだけど、当然地方によってその情景はかなり異なり、大規模な空爆や原爆投下が(かろうじて)なかった京都では、比較的平穏な戦後が訪れた。とはいえ、食糧難が一番の課題となった。

■特に興味深いのは、のちの歴史学者の小野信爾が京大の学生のころ、ポツダム勅令で逮捕され、大阪軍事裁判所で有罪とされて山科の刑務所に入ったときの日記が記述される部分だな。当然京大の学生組織が抗議するけど、そのときに小野くんに捧げる詩を読んだのが学生演劇をやっていた戸浦六宏だったそう。つまり、その横(背後?)には当時京大の学生運動を仕切っていた同士の大島渚がいたはずなのだ。

■当時京都の学校では、当然地区によるけど、児童学生の1割程度が在日コリアンだったらしく、刑務所の中では在日コリアンの比率がさらに高かったという。小野青年は強制労働で学生服の縫製を担当するけど、こんな安っいボロ服誰が着るんや?と愚痴ると、共産党員とかの貧乏なおかみさんが子どもに着せるんだろ!と囚人仲間に言われて、急にしっかり丁寧に縫わなきゃ!と改心して、懸命にミシンを踏んだエピソードとか、リアルに泣かせるいい話。その後、警察予備隊の制服の縫製を間に合わせるために、無茶な残業を命じられて反発するところとか、なかなか空想だけでは思いつかないわなあ。

■他にも、エリート京大生が刑務所のなかで、香具師やヤクザや在日コリアンたちのリアルな生活実態や意見を垣間見る日記は、そのままで東映実録映画になりそうな興味深いエピソード集でもある。頭でっかちな左翼青年は、こうして社会のリアルな現実に目覚めてゆくんだな。そして、90歳になろうかという、既に体の不自由な晩年の御本人と筆者の対話があるという凄い趣向で、この部分だけでも読みでがある。すげー

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