日中戦争のさなかに、新型細菌兵器爆誕!上田早夕里著の空想科学サスペンス『破滅の王』(ネタバレあり)

■上田早夕里は短編集『魚舟・獣舟』の頃から読みたかったのに、なかなか読む機会がかなった。でもなぜかSFじゃなくて、戦前戦中の魔都上海を舞台とした空想科学謀略サスペンス小説『破滅の王』をまずは読みましたよ。たまたま図書館でゲットしたのだ。

■悪くないけど、正直長いと感じる。第2章からやっと治療法がない極悪新型細菌(R2v)の登場でそれらしくなるけど、第1章はかなり冗長で、挫けそうになる。最近は勉強のために(?)映画シナリオばかり読んでいるので、全体のバランス上、序盤はもっとさくさく飛ばしたくなる。映画だと、序章はサクサク進めるものだから。

■新型細菌の登場からは中国大陸での新型細菌使用と滅却のえげつないサスペンスもあり、なかなか派手な見せ場もあるし、最終的に陥落寸前のベルリンまで大風呂を広げるので、ぐいぐい読んでしまうけど、正直期待には及ばなかった。純粋なSFのほうが良いのではないか。人間関係をもっと刈り込んで、その分濃密にしたほうが、効果があると思ったなあ。

■魔都上海を舞台としながら、その魔都ぶりがあまり描かれないし、新型細菌を発見して進化させた真犯人の犯意もまあありきたり。石原莞爾の思想と共鳴しているのは良いと思うし、架空の世界線では今も特効薬は発見されず、数億人の被害者を積み重ねている終幕も重くて良いし、書かれた(2017年刊行)あとに新型コロナ禍が発生して、その価値を上げたと思うけど、小説としての深みとコクは劣るなあ。人間の描き方の部分と、トリック(ギミック)の部分で物足りない。特に人間像にエグみとか深みとか肉感が足りない気がする。昭和の世界観や時代感が、やはり弱いのだろう。そこは、もう世代ですよ、世代。

■空想科学の部分はかなり大真面目で、科学とは何か、科学者の使命とか倫理はいかなるものかを、青臭く問うているのは逆に新鮮で、筋は悪くないのだけど、深みはない。そこがなあ。やっぱり代表作の『華竜の宮』を読んでみないとな。

補遺

■『華竜の宮』を読み始めましたが、期待通りに面白いですね。日本SF大賞を『まどか☆マギカ』と争って、勝ってしまった小説なので、そりゃ当然。『破滅の王』より全然、こっちのほうが面白いですわ。壮大な海面上昇でほとんど海になった未来の地球、国家にタグ付けされない海上民が多数生きる世界で、今更ながら国家とはなにか?国民とは?社会契約が復活するの?といった思索的なお話……かどうかはまだ不明だけど、ぐいぐい読ませますね。
maricozy.hatenablog.jp

参考

最近読んだSF小説では、やっぱり古典が良いんだなあ。
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