基本情報
緋牡丹博徒 お命戴きます ★★★★☆
1971 スコープサイズ 93分 @アマプラ
企画:俊藤浩滋、日下部五朗 脚本:大和久守正、鈴木則文、加藤泰 撮影:わし尾元也 照明:中山治雄 美術:吉村晟 音楽:木下忠司 監督:加藤泰
感想
■日露戦争前、陸軍用の鉛工場の廃液とばい煙で汚染された村で公害反対闘争が起こるが、陸軍(大木実)、工場長(内田朝雄)、富岡組(河津清三郎)が結託して圧殺しようとする。村民に肩入れする結城組長(鶴田浩二)は交渉の矢面に立つが...
■シリーズ第7作で、それまでもなぜか社会派映画の趣向を盛り込んでいたところ、その傾向が頂点に達した異色作にして、シリーズ随一の傑作。やくざの結城には、同時期に同じように公害闘争に尽力した田中正造の姿が重なる。田中正造が明治天皇に直訴しようとしたように、お竜さんが上京して陸軍大臣に直訴を試み、しかもこのシーンがやけっぱちなコメディシーンになっているから、顎が外れる。
■なんといっても、木下忠司が音楽に復帰して、綿々たる叙情を醸し出すのが、最高。ラスボスの富岡の悪さも、前作の悪役(安部徹)が単なる拷問好きのサディストにしか見えなかったのに比べて、実にリアルな人間像。お竜さんが陸軍省にチクったおかげで工場に査察が入るとわかると、本省から配分された農民のための補償金を着服したのがバレると困るから、工場長を冷酷に縊殺して罪を擦り付けようとする展開は、まったく胸のすくような悪さだし、実際にいたよねこんな人。このあたりはテレビで刑事物をたくさん書いていた大和久守正の貢献じゃないかな。見事にリアルな悪人像で、妙な説得力がある。
■お竜さんと結城の息子の交流なんかもよくある手だけど、加藤泰が演出するとこうも違うのかと、素直に感心します。そしてラストシーンの鮮烈なカッティングとか、さすがに唸ります。やくざであり、女であることの哀しみを一瞬でグサリと描き尽くす、これが映画の表現というもの。これぞ名場面。こういうところは、増村保造が『刺青』の演出で完全に滑ったところで、資質が違います。
■加藤泰の分身として毎回登場する(監督そっくりの)汐路章はここでは傴僂の流れ者という無茶な設定の瘤安を演じるけど、思い入れたっぷりで泣かせます。個人的には、緋牡丹博徒と言えば、熊虎の親分よりも、このキャラを一番に想起しますね。
■封切り当時には「映画芸術」などで、賛否あったらしいけど、この時代にちゃんと公害問題を描いておいてくれて、ありがとうと言いたいね。『ゴジラ対ヘドラ』の前月に公開されたけど、当時は日本映画界が壊滅状態だったこともあり、意外にも公害問題は劇映画にあまり取り上げられていない。その余裕がなかったから。しかも、当時の環境状態の最悪な実態はリアルには記録されていない(記録映画はあるけど)。『ゴジラ対ヘドラ』だって、基本的には作り物で表現した。本作だって当然ステージ撮影だけど、百姓はこうして土を舐めるんですよ、の場面は劇的効果と演出で、劇空間がリアルを超越する。
■というわけで、文句無しの傑作。もはやお竜さんの殴り込みに、連れは必要ないのだ。そこまで進化したお竜さん、殺陣も無類のカッコよさで、ビンビン痺れる。やっぱり、最高。
