基本情報
妻二人 ★★★☆
1967 スコープサイズ 93分 @アマプラ
企画:三輪孝仁 原案:パトリック・クェンティン 脚本:新藤兼人 撮影:宗川信夫 照明:伊藤幸夫 美術:下河原友雄 音楽:山内正 監督:増村保造
感想
■義父(三島雅夫)が経営する出版社で編集部長の妻(若尾文子)と一緒に働く男(高橋幸治)。別れた昔の女(岡田茉莉子)が落ちぶれて現れると哀れに思うが、そのヒモ(伊藤孝雄)が性悪男で、一族や会社の不都合な真実をネタに脅そうと画策すると。。。
■パトリック・クエンティン原作の「二人の妻を持つ男」を翻案したもので、タイトル通り、男が主役。妻が二人出てくるけど、あくまで中心は男なのだ。なので、大映名物「黒」シリーズのテイストも感じられる。タイトルは文芸ものぽいけど、基本はミステリーで、でも原作のどんでん返しではなく、心理劇としてアレンジしている。しかも、その出来がかなり良い。なんとなく、増村映画としては失敗作のイメージだったけど、全然良いじゃないか。
■若尾文子が意識高い系の最先端女子で、世の中に正しさという理念を推し通そうとする現代的な女。一方の岡田茉莉子はひたすら哀れで、ゆえに男心を唆るという古風な女。でも重心は岡田茉莉子のほうにあって、みんな岡田茉莉子に同情するようになっている。主人公の高橋幸治は、彼女との初恋(?)の唯一無二性を再認識し、葬ったはずの青春の疼きに心を裂かれる。一方で、現女房の理想家的な志の高さに素朴な尊敬の念を抱くという男で、この男が何を選択するかという、心理劇なのだった。複雑なプロットを90分に押し込んで混乱もなく、単なる図式劇にも感じさせない新藤兼人の脚色は秀逸だと思う。増村とのコラボは本人も相性が良かったと述懐しているけど、実際、レベルが高い。なにしろこの次が『華岡青洲の妻』だからなあ。
■驚くのは配役の妙で、主演の高橋幸治がかなり良いし、すぐに女の首を締めたがる変態ゲス男の伊藤孝雄と顔の骨格が相似形を形成しているあたりは、見事な配置。なんでこんなに角張って演技の硬い男優ばかりと思ったけど、二人は鏡像関係にあるから、敢えてそうしているのだった。お見事。高橋幸治の浮世離れした生硬な個性をうまく活かしたと思う。若尾文子と絡むとまるっきり『傷だらけの山河』だけど。
■若尾文子は明らかに損な役回りで、本来なら岡田茉莉子とは逆になるところだけど、わざわざ岡田茉莉子を迎えるので、美味しい役を譲ったのだろう。ケッサクなのは、元華族のグータラ社員を演じる木村玄の大抜擢で、ほとんどコメディすれすれの怪演で、木村玄と長谷川待子の謎のセレブ夫婦という通好みのコメディリリーフが秀逸。木村玄(木村元)ファンにはたまらない贈り物(?)だし、長谷川待子も真正面からお色気担当で、素晴らしいと思います。大映映画ファンにはお腹いっぱいな愉快な大サービス(?)でした。そして、お約束の早川雄三の刑事役!
■それにしても、人間関係の簡潔な図式の描き方が非常に見事なので、本当にウットリするのだけど、図式だけの骨ばった貧相な映画になっていないところが凄いことで、それぞれの役者がベストまではいかないにしても、馥郁たる存在感を発揮するし、メロドラマ性もきっちり押す。
■最終的に高橋幸治の青春の挽歌になっていて、もっと甘やかに描くこともできるけど、あくまでハードなタッチでゴリ押しに描くのが増村保造の作法で、後年の『女体』も思い出したなあ。増村は結構青春映画を撮っているのだけど、そのタッチが独特なので、いわゆる普通の青春映画らしい感傷や甘さが全くないために青春映画に見えないところが不世出な個性。こんな映画、増村以外ありえない。
■ちなみに、大映東京名物のほとんど幽霊屋敷並みの腐ちかけの建物の造形にも相変わらず力が入っていて、岡田茉莉子の棲むアパートは異次元の荒み方。「大映と言えば場末感」というイメージは、こうした美術装置の嗜好にもよるところが大きい気がする。

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