シリーズ第6作は、由井正雪の乱異聞!正統派時代劇の秀作『忍びの者 伊賀屋敷』(2周目)

基本情報

忍びの者 伊賀屋敷 ★★★☆
1965 スコープサイズ 89分 @アマプラ
企画:伊藤武郎 脚本:直居欽哉服部佳 撮影:今井ひろし 照明:伊藤貞一 美術:太田誠一 音楽:渡辺宙明 監督:森一生

感想

霧隠才蔵島原の乱の後、松平伊豆守の手勢に殺され、その息子は才蔵の名を継いで老中松平に一矢報いるために由井正雪紀州徳川頼宣を焚き付けて結びつけ、反徳川のクーデターを画策するが。。。

■ずっと前に短縮版を観ていたけど、ノーカット版ははじめて観た。そして、改めてかなりの秀作と認識した。霧隠才蔵のお話は『霧隠才蔵』『続・霧隠才蔵』で実質的に終わっているけど、改めて冒頭でその死を描く。

■なにしろ脚本がかなりよく出来ていて、由井正雪の乱の史実をなぞりながら、意外な反乱の真相まで盛り込む。徳川幕府に対する反権力闘争の意義を驚くほど真正面から描く。ちなみに、脚本は当時月刊「シナリオ」誌に掲載されているから、それなりに力が入っていたのだろう。直居欽哉服部佳のコンビによる脚本はどちらがメインで書いたのか不明だけど、まるで舞台劇のような格調高い台詞劇になっている。直居欽哉森一生はなぜか相性が良いらしく、後年の『四谷怪談お岩の亡霊』も傑作。
maricozy.hatenablog.jp

■補遺:やはり、脚本は当時若手でデビューしたてだった服部佳がメインで書いたものだった。もともと直居欽哉にきた仕事だったけど、直居が忙しかったので、服部がメインで書いたという。桂千穂編の「にっぽん脚本家クロニクル」でご本人が発言していた。服部佳、若い頃から凄い書き手だったのだ。後年舞台に進出するのもご尤も。

徳川幕府の施策に対して憤懣やる方ない紀伊藩主の徳川頼宣白紙委任状のくだりも凄い作劇だけど、最終的に老中松平に上手く丸め込まれてしまう腹芸の政治劇の残酷さもリアルで大変結構。これがおとなの時代劇。

■全体にイメージとしては、大映映画よりも東映映画に近くて、脚本の書きぶりのせいもあるけど、森一生もかなり崩した現代劇的なキャメラワークを駆使している。そもそも、前作までの超ハイコントラストのルックから、相当無難なグレートーンに戻している。撮影の今井ひろしも、作品によってはもっと硬派で重厚なタッチを見せるけど、本作は相当に柔軟なキャメラワーク。美術も森組おなじみの太田誠一なので、豪華絢爛ではなく、ポイントを絞り込んだセットで、独特の寂れが特徴。ラストの海岸シーンの木々の植栽もいかにも大映タッチで渋い。きっと美術倉庫にストックがあったんだね(多分他の作品で使ったもの。『斬る』かも)。でも豪雨の大屋根での死闘はかなりのスペクタクルで凄かった。

■女忍者が八千草薫というのも異色だし、その配下甲賀幻心斎が殿山泰司というのは謎でしかないけど、もともとは石黒達也だったものが、急遽変更されたらしい。この二人の配役は明らかにミスっているけど、結果的にそれがいい塩梅で息抜きになる。本来なら、女忍者は藤村志保でぜんぜん良いと思うよ。

■でも八千草薫もシナリオ的にちゃんと生かされていて、単なる紅一点の扱いではない。松平候は何でも自分のおもうようにしたが、百合姫の心だけは操れなかった(意訳)というラストの雷蔵の台詞がちゃんと機能しているから、ほんと偉い。今どきの忍者ものなら、二人の運命はもっと残酷な結末を迎えそうだが、あえてそうせずに、二人に未来を残した、託した作劇は、その甘さが新鮮に感じられる。渡辺宙明の若干アブストラクトな楽曲も甘すぎずに良いんだと思う。

森一生は基本的に演技には注文をつけないし、時間どおりに進行する淡白な職人気質のおじさんだけど、実はちゃんとメリハリを活かしていて、本作でも丸橋忠弥の槍の舞の場面なども上出来。雷蔵と八千草の幸せだった子供時代の回想なんて、誰でもそう書くし、誰でもこう撮るシーンなのに、妙に初々しい感動があるから不思議だ。なんでだろ?


© 1998-2024 まり☆こうじ