映画の基本は「省略」にあり。薄いけどなかなか有益な『映画脚本の教科書 プロが教えるシナリオのコツ』

■いわゆるノウハウ本だけど、実はなかなか有益な一冊。例えば、ドラマの基本は主人公の「変化」を描くこととされる。変化がなければドラマにはならない。ではその変化をどう具体的に描くのか?と考え始めると、なかなか大変な作業になってくる。悩み始める。

■ところが実は、特に映画では、この変化のプロセスはズバッと省略できる。その点をシンプルに指摘したのは、なかなか深いと思う。自分自身、最近になってやっと気づいたことだけど。

■人間を変化させるための試練や葛藤は「承」の部分で描くことになるし、そこで、ああだから主人公はこのように変化したのだなと納得させる手もあるし、それが王道だろうけど、極端にいえば全部省略しても実はドラマは成り立つ。

■これは人間の認知心理学とか、認知特性の問題だけど、Xaの状態と、Xbの状態を頭とおしりで提示すれば、Xがaの状態からbに変化していることがわかるので、そこに何かがあったはず、何があったのだろう?と考えずにはいられないのが人間の心理特性だからだ。そこから逆算して、「承」の部分を思い返して、自分の納得できる理由を探し出す作業を、自然と始めてくれる。そういう心理機制が自動的に働くのだ。

■映画の話法の基本は「省略」にあり、映画のシナリオは小説ではなくて詩に近いというのはシド・フィールドも指摘していたけど、映画の話術のほとんどは省略によって成り立っている。小説と違って、時間的な制約が致命的に大きくて、人間の経験すること、行うことなどのうち、ほんの断片的な一部しか描けないからだ。それによって、人間の全体を想像させるという手法を用いる。その点を「変化過程は省略できる」「省略した部分を観客に発見させる手法は、物語るための重要な道具だ」と、身も蓋もなく指摘している(17頁)。これは映画の実作者は無意識のうちに自然と行っていることだろうけど、かなり重要な指摘だと思う。

■シナリオとして描くのに難儀する複雑な箇所は、むしろ省略してしまえという指摘は、かなり斬新なもので、目からウロコがおちました。他書ではあまりお目にかからないアドバイスで、実務的にも非常に有益。実際、このあたりの顛末を描き始めると尺をとるし、心理的にも人間関係的にもややこしいなあという箇所を、敢えて省略してみる。それでも成り立てば、それでいいのだし、意外と成り立つ。という割り切りは、類書を凌ぐ凄い指摘だと思う。

■ちなみに、「串団子シナリオ」はダメと最近は言われるけど、昔から時代劇では「道中もの」はそうした構成になるのが普通で、ジャンルによっては親和性があるのだろう。ただ、シナリオコンテストなどでは評価されないけどね。

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