基本情報
冷や飯とおさんとちゃん ★★★☆
1965 スコープサイズ 178分 @NHKBS
原作:山本周五郎 脚本:鈴木尚之 撮影:飯村雅彦 照明:和多田弘 美術:鈴木孝俊 音楽:佐藤勝 監督:田坂具隆
感想
■「冷や飯」「おさん」「ちゃん」の短編からなるオムニバス映画。といっても各編が約1時間あるから、中編映画のオムニバスと呼んだほうが正しい気がする。そして、それは弱点になっている気もする。演出全般にいえることだけど、メリハリに乏しくて、3時間集中して観るには辛い。しかも、3時間映画なのにインターミッションが入らない!(実際の上映では適宜入れていたかも)
■しかも中村錦之助の年齢的な立ち位置がなかなか微妙で、「冷や飯」「おさん」では老けすぎると感じるし、「ちゃん」では若すぎると感じる。「ちゃん」なんて、もう少し老け気味でよかったんじゃないか?
■「冷や飯」「ちゃん」はいかにも周五郎的な温かい人情味がよく出た話で、特に「ちゃん」はもう周五郎ワールド全開。森光子と渡辺美佐子という社外組をフィーチャーしたエピソードだけど、素直に感動させるよね。ちゃんの娘で登場するちっちゃい藤山直子(直美)が、露骨に関西なまりなのに、達者な芸ですっかり場をさらうから、芸能の血の濃さは恐るべし。
■田坂具隆はこの頃もう老巨匠だけど、錦之助が全幅の信頼をおいていた名伯楽だったので、錦之助の演技には力が入っている。でも、それが変な力みにならないように監督がちゃんと采配している。なので、丁寧に撮られていることはよくわかるけど、もっと省略とか緩急をつけたい気はする。
■その点、いちばんの意欲作「おさん」はむかし観た(たぶん、ぶんぱくで)ときにビックリした。封切り時にも、周五郎の人情噺を観に来た観客は唖然としたのじゃないか。性愛をかなりストレートに、しかも相当に哲学的に探求しているからだ。特に錦之助の長台詞には原作にない部分が多くて、しかもかなり観念的な台詞が多い。ここだけ、明らかに時代劇を逸脱していて、当時の現代劇のテイストになっている。これホントに鈴木尚之が書いたのかという気がする。クレジットにはないけど、もっと若手が書いたのではないか??
■三田佳子演じるおさんを錦之助の主観で描く回想場面は背景セットが単色になり、様式的な表現になっていて、その効果が、このエピソードが様式的な観念劇であることを宣言する。老巨匠の意欲が十分に感じられる演出だ。残念ながら未見だけど、すでに『鮫』という異色作で性愛の問題には正面から突っ込んだ老巨匠なので、それは明確な意図に基づいている。ただ、三田佳子の演技はまだ生硬で、おさんの底抜けな淫蕩さを十分に表してはいない。でも三田佳子はやればできる子で、すでに前年の佐藤純弥の『廓育ち』ではリアルな女性像を完璧に演じきっているのだ。だから、佐藤純弥て、初期は凄い演出家だったんですよ、実は。
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■おさんの幻想的な描き方に対する生きた女のリアリティを演じるのが、東宝から借りてきた新珠三千代というのも妙味で、非常に丁寧に描きこまれた良い役。しかも、美人は美人だけど、生活感を感じさせるように演出されているから、錦之助のラストの台詞「――にんげん生きているうちは、終りということはないんだな」が引き締まる。でもラストの切れ味は、原作が小説ならではの冴えがあるよね。そうそう、おさんに逃げられて廃人になる大坂志郎がさすがに名演。
■さすがに大ヒットを狙える企画ではないけど、地味ながら秀作。でも、加藤泰が監督なら、もっと良かったよね。と誰しも思ってしまうのでした。
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