基本情報
太平洋奇跡の作戦 キスカ ★★★★
1965 スコープサイズ 104分 @DVD
製作 :田中友幸、田実泰良 脚本:須﨑勝彌 撮影:西垣六郎 照明:西川鶴三 美術:北猛夫 音楽:團伊玖磨 特技監督:円谷英二 監督:丸山誠治
感想
■随分久しぶりに観たけど、改めて傑作認定ですね。これはなかなか凌駕できないレベルで完成度が高い。なにしろ須崎勝彌の脚本が完全に自家薬籠中の名調子。帝国海軍良いエピソード集といった趣で、人間関係や登場人物を造形してゆく話術が卓越している。そこに、脂の乗った東宝男優陣が勢揃いするので、もう顔ぶれと演技の内容で完璧な布陣。戦記物には無敵の強さを誇る西垣六郎のリアルなキャメラも絶妙。まあ、『殺人狂時代』の自在さには及ばないけど、安定感が凄い。
■三船敏郎と山村聡のコンビだと、後年の『日本のいちばん長い日』も有名だけど、あっちは血管切れそうな舌戦が展開され、同じコンビでも本作はゆったりと紳士的な上下関係が描かれ、その対比が興味深い。でも、阿南陸相よりも、こちらの大村少将(架空)の下に就きたいと、みんな思うよね。そうした理想的な海軍軍人を描いて、大成功している。大きな戦果は持たないけど、ここは譲れないという作戦では粘り強く着実に勝つ、そんな男だから、キスカ島撤退作戦には適材適所なのだという山村聡の判断も鮮やかに描かれるし、大村少将の造形にも念が入っている。
■徹底した合理主義者として描かれ、取り立ててくれた上官の恩に報うとか、そんないらんことを考えると判断を誤るのだ、礼は作戦が成功した後でまとめて言うと語る名場面とか、霧の発生を予想する気象担当の技官(児玉清)に、学者の良心に従って判断せよと諭したり、そうしたことが徹底しなかったために負けた戦争に対する内省が、作劇に生かされている。気象予報担当の技官は、周囲から帝国軍人なら予想は五分、残りの五分は大和魂で補えと圧をかけられるが、大村少尉はあくまで学者の良心に沿って、合理的な、科学的な結論を出せと言っている。立派すぎて、涙が出るよね。
■さらに、キスカ島突入を目前に、霧の濃度が足りないと一旦引き返すし、米軍の動きを警戒して正面突破を断念、西回りの隘路を進む迂回路を選択する。時々の選択と判断のギリギリの積み重ねが、まさに結果として奇跡的な撤収作戦成功を導いた。そのことが、丸山誠治らしい着実なサスペンスとリアルな人間描写で、じわじわと胸に迫る。映画としては大成功の部類だ。大村少尉をゆったりと演じる三船敏郎は、円熟期の文句なしの名演で、誰も真似できないよ。軍人がみんなこうなら戦争に負けなかった?
■特撮の円谷組としては、霧の描写がチャレンジで、そのために大プールではなく、ステージセットを多用するけど、ために艦船のミニチュアが小さくなって、見栄えは苦しくなった。単純に特撮の見栄えでは、大プールメインで撮った後年の『日本海大海戦』なんかのほうが数段凄い。
■ちなみに、予告編もできが良くて、当時の邦画ではまだ撮影中に予告編を作るので、未使用カットとか、予告編用に別立てでキャメラを回したりして編集したものだが、本作はほぼ完成後に作ったらしい。映画の出来に自信満々なのがよく伝わる豪快な予告編で、助監督の坂野義光が作ったのかな?『ガメラ2 レギオン襲来』の予告編並の編集だと思う。

