■信長との和議を巡って、和睦派の顕如と徹底抗戦派の教如(長男)の路線対立のあたりが、比較的詳しく書かれていて、参考になる。『本願寺顕如 信長が宿敵』は小説なので、顕如を主人公として、父の思うままにならない武闘派の教如は困ったやつだなあという世代対立の描き方だったけど、ここでは、むしろ教如は本願寺の門徒たちの生活や経済の保障を得るために、信長との交渉を続けた偉い人ということになっている。
■顕如はむしろ、天皇の権威を利用したり、宗門の世俗化を結果的に進行させたりして、親鸞の教えに背いているし、石山本願寺領内の門徒たち、寺内町衆の生命・財産の保全を図らず置いて逃げた、などとかなり散々に批判される。どこまで字義通り信じていいのか、不勉強なので今のところ判断がつかないけど、非常に興味深い。「父子密計説」なる見立てもあるらしいけど、これはさすがに無理があるなあ。顕如の理念なき和睦の姿勢は、中世的自由民にとどめを刺した、ということだけど、これはまあ誰が何をしようと、すまいと、時代の流れだからそうなるしかないわけで。
■信長との和睦に関する父子の相克のあたりはドラマ化に向いているはずなのに、なにしろ浄土真宗の宗門内の話で、一般的に受けないんだろうなあ。新歌舞伎なんかで戯曲があってもおかしくない気がするのに。
■・・・と思ったら、やっぱりありましたよ!明治時代に、顕如の三百年忌にからめて真宗門徒の動員を当て込んだ出し物「石山軍記物」が流行した事実がありました。『御文章石山軍記』などの出し物がいくつも作られたそう。当然そうなるよね。ああ、すっきりした。日本映画の草創期にも1910年『石山軍記』という作品があり、尾上松之助が出てるらしい。
