王様はなんでえらいのか?本当にえらいの?君塚直隆著『君主制とはなんだろうか』

■約5000年に及ぶ王様の歴史を概観する気宇壮大な中高生向け新書です。しかも、議論がありそうなところですが、日本も外国からは「立憲君主制」とみなされているそうです。皇室の実質的な機能を考えた際に、今やかなり違和感を感じるところですが、事実そうらしい。

君主は「権力」じゃなくて「権威」を担う

■著者は関東学院大教授で、イギリス政治外交史が専門、オックスフォード大学に留学経験もあるので、英国の立憲君主制には好意的な立場で、政治的な統治機構のもつ「権力」に対して、王室は「権威」を担っていて、特に政治的に取り残されがちな少数者や弱者の立場に身を寄せることが「高貴なるものの責務」(ノーブレス・オブリージュ)と考えて慈善活動に注力してきた歴史があるし、それゆえに市民の支持と尊敬を得てきたと述べます。それゆえ国民分断の流れを緩和し「国民統合の象徴」として機能していると。

■最近君主制が再注目されているという文脈は、まさにそこにあるようで、米国に象徴的に現れているように極端に近視眼的な現世利益を追求する世俗的な「権力」が国民を分断しようとする動きが加速するなかで、再統合の可能性として、王室とか君主の担うべき本来の超然的な「権威」としての役割の意義が増しているとはいえそうです。

英国王室を美化しすぎでは?

■ただ、伝統的に強烈な階級制社会である英国の王室がほんとうにそんなに理想的なのか?という話は当然あるし、逆に極端な階級社会だからこそ、王室が心理的に階級差をシャッフルするガス抜きの役割を果たしてきたのかもしれない。そこには確かに「高貴なるものの責務」という伝統が息づいているのだろう。われわれ平民としては、そもそも「高貴なるもの」の存在を認めること自体に違和感があり、差別そのものじゃないかという気がしますけどね。(当然、英国内でもそう考える人は少なくないでしょう。と思うけど、どうかな?)

■いっぽうで、日本の皇室にいまさら同じような役割を担うだけのポテンシャルがあるかといえば疑問だし、国民的な議論すらなかなか困難で、意見の集約とか統一すら容易ではない。欧州の王室では「絶対的長子相続制」が主流だけど、国内では極右を中心に反対意見が根強いし、どんどん絶滅危惧種とかしてゆき、本来果たすべき役割すら曖昧となり、いずれ存在意義が霧散してゆくだろう。ただ曖昧な「象徴」として保護され、生かされ続ける「空虚」そのものとして。

■なお、終戦後に日本に象徴天皇制が適用されたのも、第一次大戦後にドイツが皇帝を除いて共和制に移行したらとんでもない独裁者が出てきた反省を踏まえて、国民を統合するには「象徴」は必要なのだ、君主は独裁者よりはましなのだとの価値観が提唱されたことが影響しているそうです。まあ。それだけじゃないけどね。

でも「立憲君主制」は意外と使える制度かもしれない

■でも「立憲君主制」は改めて使える仕組みかもれないとも思う。なにしろ共和制は人間が理性的であることを前提としていて、古典的な経済学が超合理的な人間像を仮定して理論体系を構築したのと同じような、現実軽視・現実無視の弊害がある。実際は、普通の人間は「自由」の重みに耐えきれない。これは人間の持つ特質であり限界。ゆえに「自由からの逃走」が生じて、結局せっかく手にした「自由」のほとんどを投げ出して、強烈な独裁者を招き寄せてしまう困った仕掛けなのだ。悪徳不動産屋が強大な「権力」を行使するいまの米国をみればわかるように。

■それなら、いっそのこと「君主」を置いて、君主に対して人民は強制ではなく自由意志によってすすんで限定的に服従し、一定の「自由」(主権)を委託する契約を結んで、かなりの部分を「君主」にやってもらえばいい。でももし戦争に負けたりしたら、その責任は「君主」に集約して、「君主」を交代してしまう。こうして古い時代体制をリセットして、気分一新、新しい時代を向かえることができるというわけ。「君主」が「権威」ではなく「権力」を志向して強権化しようとしても、世俗的な「権力」=政府の側から制約し、同時に人民が委託した「自由」を契約違反だから返せと声を上げることができるようにすればいい(まさにそれが英国流の君主制度なので)。

天皇は「万世一系の云々」という謎のファンタジーに基づく「権威」ではなく、国民の自発的な服従・委託をこそ、その「権威」の源泉とすればいいのだ。というか、日本国憲法の第1条にそれっぽいことが書いてあるけどね!みんな忘れてない?(忘れてました)「万世一系」なんていってたのは明治憲法の時代の話だし、明治期にそれ作った人々はそんなこともちろん信じてなくて、いわゆる「顕教」として、まだ未開で無知だった臣民向けに分かりやすいように作為的に謳った仮構なのにね。

■その点でいえば、「立憲君主制」の真価を実質化する意味からも、今上天皇はもっと「高貴なるものの責務」としての「権威」を発露してもらわないといけませんよね。。。ガンバレ!

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