2016 連続ドラマW 沈まぬ太陽 第二部(全12話)★★★
原作:山崎豊子 脚本:前川洋一 撮影:柳田裕男、 照明:宮尾康史 美術:江口亮太 テクニカルプロデューサー:大屋哲男 VFXプロデューサー:道木伸隆 VFXスーパーバイザー:森田淳也 音楽:佐藤直紀 監督:水谷俊介、鈴木浩介
御巣鷹山編
Vol.5(ep9&10)
■第一部から11年後の1985年8月、大阪行123便が墜落して500人以上の死者を出すと、恩地は遺族のお世話係を命じられる。社長は厳しい批判に晒され退任を余儀なくされ、堂本体制は崩壊。政府首脳は新社長候補を探し始める。一方で行天は愛人(長谷川京子)に自分の野望を明かし、恩地には大阪での遺族補償担当が命じられる。
■第二部から平幹二朗、橋爪功、長塚京三といった大物が登場するので、やっと本調子が出てきそうだけど、政治絡みの描写がどうも薄味で、豊子らしさが出ていない気がする。中曽根首相と瀬島龍三の関係とか、単純すぎるぞ。本性を表すのはこれからかな?
■そんな眼で社長を見るな!と行天から突っ込まれるほど恩地の一本気は「善魔」の様相を帯び、なんだかどんどん人間離れしてくる。お前達にはロスとバンコクで事故隠蔽の前科があるからな。とネチネチと脅す恩地は、いくらなんでも常人ではない。地縛霊か?
■行天の愛人がしれっと登場するし、長谷川京子がしっかりと色っぽいのは良いのだけど、まるで『白い巨塔』のようだ。そうか、恩地と行天は、里見と財前の関係そのままだね。里見の言動はまだ正直で誠実な人間に見えたけど、恩地はもう人間じゃなくなっている。
■実際に起った大惨事で、当時救出場面などをテレビでリアルタイムに観ていた世代なので、観ているだけで辛くて、単純には楽しめないわけだけど、唯一生き残った非番のスチュアーデス(中村英里子)の病床での証言場面(ep9)は、なかなか秀逸で、誠実ないい芝居だった。いまのところ、本シリーズのベストアクト賞だ。なぜかほとんど注目されていないので、中村英里子の名前を明記しておきたい。
Vol.6(ep11&12)
■恩地は大阪で遺族への補償業務にあたり、遺族たちの苦衷に共感してゆく。娘には結婚話があるけど、相手の父親が製薬会社社長で、アカの娘とは結婚させんと息巻いているらしい。一方、首相は後任社長を大阪の繊維会社を再建した国見(長塚京三)に指名し、会長職として受諾すると、二回目の召集令状と思って国のために働くと誓う。一方、元社長は退くけど、院政を敷くつもりだと述懐する。
■遺族として山本圭(!)、戸田菜穂、室井滋などが登場するけど、昼間からウイスキー飲んで荒んだ生活をおくる寡婦 戸田菜穂が妙に色っぽくて良かったよ。このひと、元気な役よりもこうしたやつれた役のほうが似合うなあ。
■一方で、行天の勤め人としての有能さが具体的に描かれないので、どうすれば大企業の役員になれるのか知りたくてドラマを観ている(ホント??)サラリーマン諸氏の期待にはそえていない。そこは、もっとリアルにしっかり描かないとサラリーマンドラマとしては食い足りないよね。原作もそうなのかなあ。
会長室編
Vol.7(ep13&14)
■国見会長は執行部の一新を目指して、堂本前社長を相談役から追放し、三専務を更迭する。会社体質の刷新のためには新旧組合の統合が必須と考え、旧組合の推薦もあり恩地を本社会長室に呼び寄せる。しかし、御用組合である新労組に絡んでは、巨額の組合費(年間7億円!)の利権をめぐって公私混同が横行し、生協でも同様の乱脈が発生していて、子会社、関連団体含めて利権あさりが常態化しているらしい。そして、遺族会は会社を提訴する。
■いよいよ「会長室編」が始まりました。ドラマは急展開して、一気にドラマ性が加速しますね。やっと面白くなってきたぞ。キャストも一気に豪華になって、大杉漣、陣内孝則、高嶋政伸と濃いめのベテランが揃っている。特に高嶋政伸はさいきん意識的に怪優ポジションを狙っているようだ。
■国見会長から慰労されて「はじめて人間の声を聞きました」と恩地が思わず漏らす場面はさすがに感動的で、これまでアフリカ編、御巣鷹山編で恩地の苦境にずっと付き合ってきた視聴者の溜飲も下がるようになっている。
■一方で、娘の許婚に「人間にとって最も卑しむべきことは、人を差別することです」と諭す場面も、ストレートで良いよ。
■さすがに巨大企業の組織は魑魅魍魎ですね。われわれ庶民には想像もつかない世界です。ああ、怖い。でも傍目に見る限りにおいては、無類に面白い。
Vol.8(ep15&16)
■新生労組系の子会社では経営陣が利権を貪り、治外法権の乱脈ぶりがあった。会長は労組の統合と旧労組系社員の昇格問題を解消しようと号令し、恩地はその実態の解明を密命されるが、共産党の秘密党員だとの公安部情報が流され、新体制への社内からの内部批判が新聞にスクープされる。それは新生労組、副社長派閥の依頼で行天が書かせたものだった。さらに、特別販売促進費のキックバックの不正疑惑も浮上、会計検査人からは系列不動産会社の乱脈経営の情報が。。。新生労組OBの系列会社は、首相麾下の会長による改革路線に対抗するため、政治家と官僚を抱き込もうと画策する。
■関連会社のボロボロの経営実態が次々に明らかにされ、恩地の調査もいちいち中途半端な気がするけど、どんどん加速的にドラマは面白くなってくるなあ。
■原田泰造がやっと再登場して、品性卑しそうな新聞記者を好演する。このひとコメディアンとしてはちっとも良いと思わないけど、性格俳優としては得難い個性なのだ。
■前社長が登場して、僻地に左遷されても10年間信念を曲げなかった恩地に嫉妬していたのだと述懐するところが、ドラマ的には肝で、さすがに見事な作劇で感心した。この前社長はもともと共産党の闘士だったけど戦時中に転向したという設定があり、そのことが恩地冷遇の腹の底にあったことに、やっと自分自身で気付いたということだ。國村隼を単純な悪役で終わらせるとは思わなかったけど、さすがに見事な退場でしたね。
■このドラマのテーマは、やはり「差別問題」というか「差別意識」にあって、航空会社内の現場技術者差別、旧組合員差別、さらに思想信条による差別が、安全最優先の体制整備を阻害した、それが未曾有の大事故を招いたという見立てになっているようだ。
■恩地の娘の許嫁の父親がなぜかオール阪神で、嫁さんと二人で場違いに派手な見た目が完全に夫婦漫才の出で立ちなのが可笑しい。本作では珍しくベタに笑わせる場面で、素直に楽しいですよ。
Vol.9(ep17&18)
■関連不動産会社が取得したNYの名門ホテルの取得経緯について疑惑があり、恩地はNYで調査するが、行天も社長特命で情報収集を進めていた。社長派の政界工作は副総理(本田博太郎)にまで及び、国見会長バッシングが燃え上がる。世論の反感を払拭するために、竜崎まで変節して国見に引導渡そうとする。行天は国交省のキャリア(石丸幹二)を籠絡するためにホステス(佐々木希)をあてがってマンションをもたせるが、ホステスはペーパーカンパニーの社長に執着する。さらに、ドル先物予約で巨額の損失を出していることが発覚する。
■NYのホテル案件も巨額の差益が新生労組OBの社長のポケットに入り、新生労組OBが天下った(?)関連会社では、陣内孝則や高嶋政伸が公私混同の魑魅魍魎とかしている。国見会長の改革路線も、土台から揺らぎはじめて、首相ラインも切り捨てようと動き始める。これであと2話で完結するのか心配になるけど、ちゃんと着地するんだろうな。
■国見に懇願して労使協調の改革をさせた竜崎が変心して、国見を切ろうと動き出すあたりの嫌さはさすがにリアルな怖さ。なにしろ、モデルはシベリア抑留を巡って「昭和の怪物」とよばれて毀誉褒貶ある瀬島龍三だから、一筋縄ではいかないので、やっとこの人の怖さが出てきた。そもそも『不毛地帯』の主人公だからね。
Vol.10(ep19&20)
■非常識な10年ものドル先物予約を斡旋したのは、日本産業銀行社長(西岡徳馬)の悪知恵で、インドネシアへの円借款と抱き合わせで副総理の裏金作りのスキームに利用したのだった。国見会長は不動産会社の社長(陣内智則)を解任するが、腐りきった社内を改革するには、もはや司直の手に委ねるしかないと主張する国見を総理は切ろうとする。総理、元総理、副総理の派閥間での抗争が激化し、国民航空問題は完全に政争の具と化していた。そして社員の遺書による裏金作りの告発から、東京地検特捜部の捜査が始まると、行天や関連会社の社長(高嶋政伸)が拘束される。首相の裏切りによって国見は会長を辞任し、恩地は遺族補償担当に戻ることを希望するが、社長(佐野史郎)はカラチへの転任を決定する。恩地はアフリカの大地で、だが太陽はまだ沈んでいないことを実感するのだった。
■ドル先物予約問題とインドネシアへの円借款のからくりを、実質的に金丸信や日本興業銀行を名指しして描く豊子は、さすがの貫禄だ。政治家ははしごを外すから気をつけろと、前社長(國村隼)は言い残したけど、まさに社内関連子会社の魑魅魍魎に加えて、政界の百鬼夜行ぶりはすさまじくて、ゲップが出る。橋爪功、伊武雅刀や本田博太郎に比べると、さすがに晩年の平幹二朗はちょっと精力に欠けるけど、最晩年の作品だからなあ。
総括
■結局、新旧労組の統一という労使協調の大目的は達成できず、遺族補償問題の訴訟も継続中で、傷だらけの航空会社がそのまま残された。安全第一を標榜する会社の組織改革はほとんど、政治家の思惑によって潰された格好だ。ああ、恐ろしい。
■恩地にとっては、ボタンのかけちがえの発端だった八馬(板尾創路)には司直の手は及んでいないようだし、政治家たちの暗躍にもメスは入らない。その意味では、大きな徒労感を残したままドラマは終わった。現実がそうだから、そのとおりになっているのだけど、ホントに遣る瀬ないよな。巨大な組織に対峙したときの、個人の徒労感がテーマだったのだ。
■さらにドラマの大きなテーマは、社内での差別問題だし、端的に言って反共的差別意識なのだった。そんなテーマで大長編を仕立てるのは、いまどき豊子しかいないけど。でも、テーマがブレないのは、立派なことです。
■当然ながら恩地は子どもたちになんで辞めないの?と聞かれるけど、国見会長と約束があるからだと答える。恩地のモデルになった小倉氏の言では、俺が辞めると社内で喜ぶやつがいるから意地でも辞めなかったと述懐しており、そのほうが説得力がある。普通なら、とうに辞めているところだから。
■ミムラ演じる新聞記者はときどき登場して、行天にえげつないストレートな質問を投げかけるけど、結局ドラマ的には何も発展も結実しない。勿体ないなあ。最終段階で、行天を追い詰めるのかと期待したのに。
■さすがに豪華配役だったけど、一番印象に残るのは、御巣鷹山から生還したスチュワーデスを演じた中村英里子という人で、ドキュメント的にリアルな演技だった。
■恩地を演じる上川隆也は、まさに「善魔」たる狂人的な信念の人で、演技的に実在感が感じられないけど、お家芸の上川隆也テイストで、もうそんなもんだと納得するしかないよね。一方で行天は、もっとピカレスクな悪役になりそうなところだが、どうも人物造形が弱くて、どこがそんなに優秀なのか最後まで腑に落ちない。

