人間は猿に戻ってやり直せ!でも猿の国には理想の政治家がいたよ!『SFドラマ 猿の軍団』をイッキ見!(ネタバレ有り)

■なんとなく思い立って、『猿の軍団』をイッキ見しました。2クール全26話で比較的短いうえに、ダルなアクション場面が多いので、倍速で見てもお話が把握できるので、あまり時間はかかりませんでした。でも、終盤はドラマ的に濃厚になるので、さすがに倍速再生では勿体ない。

ほんとに佐川和夫の仕事なのか?

■佐川和夫が「特撮監督」と「特殊技術」のクレジットを使い分けて(なぜ?)参加しているのだけど、正直なところ新規撮影はしていないのでは。直近の『ファイヤーマン』(他にも『戦え!マイティジャック』『ジャンボーグA』『帰ってきたウルトラマン』など)から特撮カットを多量に流用していている。光学:宮重道久、視覚効果(または合成):デン・フィルム・エフェクトなので、新規合成カットは少なくないし、UFO絡みのミニチュア撮影もあるけど、あれは本編スタッフの仕事ではないか。

■1クール目はどうも低調で、なにしろロケ撮影メインの低予算ドラマで、ほとんどが雑木林とか造成地での撮影だし、ゲバー署長率いるチンパンジー軍団との同じような攻防戦が続くでの、毎回、ほとんど同じ画面(えづら)なので、倍速再生でどんどん飛ばして見てしまう。おまけにドラマ的には響くものがないし、所詮はこんなもんかと思いきや、2クール目あたりからやっと本調子が出てくる。小松左京田中光二豊田有恒が原案を作成したことがやっと納得できる。

ユーコムとはなにか?なぜ人間を裏切ったのか?

猿の軍団と「裸のサル」の対立が激化すると、なぜかUFOが現れて紛争に冷水をぶっかける。猿たちは「お守り」と呼んでUFOを畏敬しているらしいが、存在自体を不思議には思っていないらしい。一方、「裸のサル」たちは「ユーコム」の名を手がかりに、生き残った人間の所在と、人間が滅亡した秘密を探ろうとする。

■ユーコムは「UEC COM(Universal Ecosystem Control Computer)」のことで、人間が作った地球環境維持のための人工頭脳。ところが、増えすぎた人間が地球を壊しかねないので、人口を減らすことにした。小学校の学年ごとに子供の数が減ってゆく恐怖を子どもの作文で描いたあたりは、きっと小松左京のアイディアではないか?(ここ、ホントに怖い)人類は老化の一途を辿り、労働力不足を猿の遺伝子改造で賄おうとするが、進化した労働猿が(当然ながら)反乱を起こし、人間を支配下におくと、ついにユーコムは猿側に与する。さらに、UFOで常時地上を監視し、紛争を種を即座に潰す警戒活動を行っている。老人たちが監視する作業現場で労働猿たちが蜂起する場面、いまみると実にリアルでなんともやるせない気分になる。。。

■ユーコムの手足として飛び回るUFOは、いわば超国家機構の早期警戒装置であり、簡易な軍隊であり、比較的ソフト(?)な暴力装置。露骨にいえば国連軍のイメージだろう。当時の米ソ冷戦体制のような巨大な世界の超越的なコントロールはさすがにできないけど、猿の国くらいのレベルと規模なら、コンピュータが手足を使って管理できるから、その程度のレベルに進化を抑えているということだろう。だから、猿が人間レベルまで進化することは、おそらくユーコムは望んでいない。人間は進化しすぎた。猿に戻ってやり直せ。それがコンピュータが出した結論だったのだ(多分)。コンピュータが人類の再進化を管理するということだろう。そしてたぶん、猿の世界に(まだ)核兵器は存在しないだろう(ドラマでは言ってないけど)。

軍事クーデター勃発!

■一方で、猿の国ではチンパンジー派とゴリラ派が対立していて、チンパンジー派のリーダー、ルザー長官は密かに秘密組織「ユーカ」を結成していて、政権奪取のクーデター計画「パンジー作戦」を決行する。このあたりがシリーズ全般のクライマックスで、ずっと観てきた甲斐のある、熱いドラマと芝居を堪能できる。露骨に5.15事件とか2.26事件をなぞった軍事クーデターが描かれるので、唖然とする。中央政府の大臣たちが次々と血祭りにあげられ、当然「話せば分かる!」の台詞も飛び出すし、「パンジー計画」の決起は雪の夜に行われる。わざわざ、雪の降る庭を作ってますからね、予算ないのに。チンパンジー族の横暴に反発した「民間猿」たちは一斉蜂起してビップ長官の名を呼びながら中央政府に押しかけると、ルザー長官は猿の軍団に発砲を命じる。水平射撃で「民間猿」の屍が累々と積み上がる。それでも蜂起は収まらない。
maricozy.hatenablog.jp
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■一方で治安担当のビップ大臣は「裸のサル」を守るために「忍猿」(なぜか忍者!)を組織して、チンパンジー族から人間を守りながら、クーデターが発生すると、ルザー長官の前で、堂々の政治交渉を繰り広げる。これがこのシリーズの白眉ともいうべき名場面で、嘘のようだけど感涙の見せ場。まさか猿芝居で泣かされるとは思わなかったけど、本当のことだ。ビップ大臣がいかに高潔で立派な政治家だったかということを具体的な台詞でちゃんと表現した見事な脚本。SF作家グループの原案は台詞とか芝居の見せ場までは書いていないはずだから、これはベテラン若槻文三の功績だろう。反乱軍であるルザー長官側近のチンパンジー兵士たちでさえ、その説得に感動して、ルザー長官を裏切って投降するのだ。わしの願いは、猿の国の平和と繁栄それだけだ。わしは引退して、朝に夕にそれだけを願って諸国を行脚しよう。後はお前に託す。お前ならできるはずだ、ルザー!クーデターの野望潰えて、改心したルザー長官は呟く。負けた、オレの負けだ。。。

テレビ映画職人、深沢清澄の代表作

■監督は深沢清張がメイン監督で、普通ならメイン監督はそれなりに有名な映画監督とか、演出家を連れてくるのに、本作は円谷の生え抜き。ちゃんと最終回まで撮っていて、相当の意欲作であることは間違いない。低予算だけど。

■軍団に愛想を尽かして職を辞す立派な父猿を描く、ep17「悪の軍団から親子猿を救え!」とか、恋人と幸せになるために金が欲しくてユーカ組織に身を投じた青年猿の悲劇を熱く描くep20「謎の無線機が呼んでいる!!」とか、ビップ大臣の政治的手腕を感動的に描くep24「勝利の日は近い!!」とかも、傑作エピソードを全部撮っているから、大したもの。

猿たちの青春ドラマ

■当然ながら猿たちのドラマがちゃんと描かれないと持たないので、そこもSFを作家グループは気を砕いたはずで、ユリカを攫ってゆくゆくは嫁にしようとする(危ない)青年猿ep9「かわいい人間よ お嫁になって」とか、前述のep20「 謎の無線機が呼んでいる!!」、青年のフィアンセが復讐を誓うep21「愛する猿への伝言」とか、このあたりは若いスタッフの怨念がこもっている気がするなあ。「美人猿」ユーリなんて、ルザー長官から射殺司令が出ているので、生き延びることができるかどうかすら定かではないのだ。やるせない。。。

■前半で大活躍して、後半は徐々にコメディ要員に変貌してゆくゲバー署長(裸のサルを殺せ!突撃だー)の最期も、随分残酷なもので、救いがない。多分、子どもの人気が出ていたはずなので、よくもあんなむごい退場をさせたものだと思うよ。可哀想すぎる。トラウマ案件ですよ。

徳永れい子に萌える!

■泉先生役の徳永れい子は、もともと東宝出身の美人女優で、いかにも東宝らしいクールな美貌なのに、過酷なロケ撮影に動員された。ほとんどが野外ロケで、しかも秋から冬場の長期撮影で、ホントに気の毒。特にゴードが登場するまでは、かなり体を張っているから偉いなあ。時代が時代なら、正統派の美人女優として東宝映画の顔にもなれたかもしれないのに。円谷作品でも、もっと初期メジャーな作品に出てほしかったよなあ。演技もしっかりしているし、理知的な見栄えもするし、逸材だったのに。

ゴードはホントに人間だったのか?

未来社会でたった一人生き残った人間ゴードについては、多分追加の裏設定があったのではないかと思われる。鉄格子を根性と気合でひん曲げる怪力は普通の人間ではないし、最終回でも自分は君たちと同じ人間じゃないと思うと述懐しているし、ユーコムから直接精神を改造されるし、おそらくは人造人間かなにかであろう。

■それこそユーコムに遺伝子操作された元猿とか?SF作家グループの原案には提示があったアイディアを最終的に捨てて、最終回をまとめたのではないかという気がするなあ。そもそも、最終回のユーコムて、具体像を描かないからなあ。よほど予算がなかったのだ。

円谷プロが連続ドラマに成功した記念碑的作品

■正直舐めてましたが、最後まで見ると、かなり充実したドラマだったと感じます。連続ドラマにしては、前半が弱くて、もっと粒だった見せ場がないと厳しいのですが、今回のようにイッキ見すると、全体構成としてはメリハリが効いて、悪くはない。特に、終盤の「パンジー作戦」絡みの異様な盛り上がりは、ちょっと円谷プロの新境地だと思いますよ。基本的に一話完結で成功してきた円谷プロが、本格的なSF連続ドラマに挑戦して、意外にも成功していた。

■後の『スターウルフ』でもその成功体験を活かそうとして、ほぼ同じメインスタッフでクランクインするけど、後半で路線変更を余儀なくされる。たしかに、これだけちゃんとできるのなら、『スターウルフ』が予定通りの連続ドラマで2クール制作されれば、もっと化けたかもしれないなあ。

■のちに平成ウルトラシリーズで、一話完結路線と連続ドラマの構成を融合して大成功することになるけど、本作の成功体験は大きかったと思いますよ。それにしても、あまりに低予算なのでそこは寂しいけどね。

■それにしても、少子高齢化のどん詰まりに新しい労働力をどうするかという今ここにある危機の行方を、あり得るディストピアとして描いた、さすがの思考実験SFですね。人間は猿に「万物の霊長」の座を譲り、「三歩進んで二歩下がる」ような退化の道を辿り、人間ほど進化はしていない発展途上な猿の世界を、超国家機構は地球全体にとってちょうどいい塩梅の生物進化の段階と定める。そこに人間の出番はもはやないのだ。超長期的な視点から世界を見ることができるのがSF的思考の利点だし、その甲斐のある意義ある空想だと思う。立派なSFですよ(やるせないけど!)。

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