基本情報
Island of Lost Souls ★★★
1932 スタンダードサイズ 70分 @アマプラ
感想
■おなじみ、HGウェルズ原作の『モロー博士の島』の最初の映画化で、肝心のモロー博士を性格俳優のチャールズ・ロートンが演じた一作。なんと獣人役でベラ・ルゴシも出ているが、特殊メイクで見分けがつかない。ウェルズ自体はこの映画化については不満を漏らしたらしいけど、実は怪奇映画としての雰囲気描写については、ヴァル・リュートンの諸作に劣らない立派なもので、感心しました。冒頭の海洋場面など、ステージ撮影ではなくしっかりロケ撮影しているので、海と船舶の情景が実にリアル。船長の鮮烈な暴力支配も、端的な表現で強烈。演出の意図は基本的にリアル志向なのだ。
■しかも、撮影技術的にもかなり秀逸で、原作でもおなじみのモロー博士の定めた掟に縛られる獣人たちのモブシーンを、まるで溝口健二のようなスペクタクルなクレーンショットで見せる場面とか、野生の娘が主人公に迫る場面の流麗なクレーン移動とか、実に見事でため息が出る。もちろん、溝口健二が巨匠になる以前の話だ。
■ウェルズ先生が気に入らなかったのは、ロタというモロー博士が豹(?)から作製した野生の娘の絡むメロドラマ的な展開とか、主人公のフィアンセがやすやすと秘密の島に押しかける驚愕展開とか、終盤の肝心要のSFテーマの深耕がないことなどだろうと想像できる。誰しも感じる弱点だからだ。
■原作小説で肝になる、モロー博士(つまり神)が死んだ後に島がたどる人類退化の過程(昏い夢!)とか、ロンドンに戻った主人公が体験する非現実的な違和感とかの重要な要素がすべてオミットされてしまったので、不満が出るのも当然なのだ。ラストはモロー博士の「苦痛の家」を抜け出した一行が島を脱出して「決して振り返るな!」で終わってしまう、ある意味活劇としては正しい端正なラストだが、SFとしてはさすがに物足りず、むしろ1963年の本多猪四郎の『マタンゴ』で見事に翻案されてしまったことになる。やるなあ、東宝映画!
■映画では単なる階級闘争的な「革命」のお話に見えてしまう(それはそれで凄い気もするけど)ので、せっかくの原作の持つ壮大なテーマ性が掻き消えてしまった。ロタとフィアンセの間で三角関係のメロドラマが発展するかと言えば、それもなく中途半端。なにしろ70分しかないので、異様に快調にサクサクと展開する編集は気持ちいいけど、これじゃ、原作のいいところが台無しだ。もったいないなあ。
■だいたいこうした怪奇SFの科学者役は痩せ型の理知的なタイプキャストになるのだが、これを敢えてぽっちゃりしたチャールズ・ロートンが演じ上げたのは誰しも感心するところで、実際見事な性格俳優ぶりで圧巻。獣人たちを支配するムチ使いも見事。おまけに、映像表現的にも怪奇映画的な叙情は見事に表現されており、撮影監督のカール・ストラスのセンスは卓抜。『ジキル博士とハイド氏』『蝿男の恐怖』といったジャンル映画の傑作に加えて、『独裁者』『ライムライト』などをチャップリンと撮っている才人なので、結構天才肌な気がする。
