戦場はいかに人の心を磨り潰すのか?意外にも厭戦的戦記映画だった『頭上の敵機』

頭上の敵機(吹替版)

頭上の敵機(吹替版)

  • グレゴリーペック
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基本情報

Twelve O'Clock High ★★★☆
1949 スタンダードサイズ 132分 @DVD

感想

■1942年、イギリスのアーチベリー基地から、ドイツ本土の軍需工場に白昼爆撃を成功させたアメリカ陸軍第8空軍第918航空群の戦いを描いた、基本的に実録による戦記映画の名作。だけど、実に意外なことに相当な厭戦的映画で、戦闘がいかに将兵のメンタルを痛めつけるかを正直に描いた映画。

■兵士たちと一体化して温情的な部隊運用を行うも、士気の低下を招いたダヴェンポート大佐が更迭されて、サヴェージ准将が後任に指名される。一転してスパルタ式に厳しい態度で士気を上げようとするが、却って兵士たちは異動願を出すなど反発。監察官の査察を受けることに。サヴェージ准将も指揮の方針を再考し、賞罰のメリハリをつけて若手有望株を抜擢したり、権限の委譲を行ったり、自らを反省することになる。というお話の流れで、軍隊に限らず、組織戦略はいかにあるべきかを問う話になっている。そこのところがユニークに感じた。この部分はいわば『マネーボール』みたいなお話ですね。

■ただ、最終的に単なる組織戦略かくあるべきという美談に終わらないところが、非常にユニークなところで、サヴェージ准将は心的ストレスで身体硬直の心身症状(たぶん今なら適応障害とでも診断されるだろう)を起こして、空爆作戦から離脱する。その後、呼びかけにも反応せず、固まったように椅子に座ったまま何時間も固まっている。白昼爆撃の成功により、B-17編隊が帰還したとき、やっと心的な自縄自縛から開放され、深い眠りに落ちる。このあたりも、実録をもとにした発想らしいけど、かなり異様な顛末だ。身体の自由を失ったサヴェージ准将の心は、兵士たちとともに、ドイツの上空に飛んでいたのではないか。そんな『世にも不思議な物語』の怪奇実話みたいなイメージで作られているだろう。

■冒頭にB-17実機を使った胴体着陸という凄いシーンがあり、その搭乗員たちのリアルな身体のダメージを提示したのも、この映画のテーマが、戦場における心的なダメージを真摯に描くことを狙ったからだろう。だから、端的に厭戦映画に見える。なんとか生還した兵士たちも、脳みそが見えるほど頭部を損傷している。作戦運用の失敗の責任を感じた若者は自殺するし、実にシビア。

■1949年ののどかなアーチベリー(基地の廃墟)から回想して、自分たちの懸命の戦いも、いまとなっては痕跡すら消え去ろうとしており、多くの将兵がすり減らした心の、魂のエネルギーの、膨大な総体はどこに虚しく消えてしまったのか?そんな諸行無常の念を抱かせる、なかなかの異色作。


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