maricozy.hatenablog.jp
■なんと京都文化博物館(ぶんぱく)の大スクリーンに『競輪上人行状記』がかかると聞いて、行ってきましたよ。フィルム上映で観る機会なんて、そうそうないからね。そもそも、なんでプリントがぶんぱくにあるのかといえば、多分京都ロケがあるからだね。西村昭五郎の監督デビュー作で低予算なのに、京都ロケが仕組んであるのは、原作の寺内大吉が浄土宗の僧侶なので、その関係でしょうね。
■日活映画をアマプラなどの配信で観ると、リマスターがしっかりしていて細部が細密なのだけど、大スクリーンで観ると解像度は普通。アナモフィックのシネスコなので、どうしても解像度は甘くなるからね。一番、気になるポイントは白の発色で、基本的にシャツの白などは薄く黄色(茶色?)がかった発色。真っ白に近いのは、強い光とか、肌のテカリ。黒みはしっかり出ている。テレビで配信をみると白はかなりきれいな純白に近く見えてしまうので、フィルム上映とは印象が相当異なる。でも、もともとの当時のモノクロ映画ってこんな色調だったのだろう。プリントの退色ではないと思う。多分、スタンダードサイズの映画のほうが、きれいなモノクロの階調が出るんだと思う。(ただし、本作のアマプラ配信原盤はあまりきれいなリマスターではない)
■とにかく何度観てもその都度不思議に感動する映画で、演出が天才的とか、脚本がとてつもないとか、いうわけではないのに、不思議な偶然の化学反応の結果、えらいものができてしまったようだ。人間の不思議、人生の不思議、人の生死と、仏の意志やその作用について、思いっきり省略をきかせながら物語る高等テクニック。
■春道(小沢昭一)は中学教師を辞めるつもりはなかったのに、兄が死んで寺に連れ戻され、本堂の再建資金を競輪でスルし、勝手に退職届を出していた父は急死するしで、結局葬式坊主になってしまう。京都で修行してせっかく寺で精を出していたのに兼ねてより思いを寄せていた兄嫁(南田洋子)が父(加藤嘉)と関係していたことを知って、再び競輪にのめり込むと、ノミ屋の餌食になって借金の方に寺の権利を取られてしまう。借金と寺の権利の差額をノミ屋からせしめて、ヤケクソでさいごの大博打に打って出るけど、そこで謎の競輪狂の女(渡辺美佐子)と出会う。
■全盛期の南田洋子が色っぽくて素晴らしいけど、春道の教え子の伊藤アイ子はさすがに微妙で、唯一配役に難がある。結局、春道と結ばれてしまう重要な役柄なので、もう少し演技経験のある若手が欲しかったよなあ。頭が弱い設定なので、日活の若手女優が嫌がったのかなあ。メインレースまで余計な車券を買わないように、縄で座席に自分を縛り付けているエキセントリックな競輪狂の女を渡辺美佐子が演じて、短いシーンなのに鮮烈な役柄で、圧巻。これがあったので、後に同じ原作者で『人間に賭けるな』(これも傑作)の主役に抜擢されたのだろう。