これケン・ローチが撮ったSF映画では?(違うけど)『PLAN75』

基本情報

PLAN75 ★★★☆
2022 ヴィスタサイズ 112分 @アマプラ
脚本:早川千絵 撮影:浦田秀穂 照明:常谷良男 美術:塩川節子 音楽:Rémi Boubal 監督:早川千絵

感想

■75歳以上の老人は無償(どころか10万円貰える)で安楽死をさせてくれる近未来の日本。失職したおひとり様の後期高齢者の女性(倍賞千恵子)、PLAN75を推進する市役所職員(磯村勇斗)、難病の娘に手術を受けさせたい一心でPLAN75の遺品処理業務につくフィリピン女性(ステファニー・アリアン)の姿を並行して描く、観るのが精神的にきつい作品。

■とにかく、このアイディアを映画化しようと考え、あまつさえ主演に倍賞千恵子をオーダーする、その作者の胆力に敬意を表する。このしんどい素材に、何年も付き合い、完成させる神経の図太さは、それだけで並の人間ではない。嫌味じゃなくて、素直に褒めてますよ。

■いわばSF映画でもあり、ゆえにPLAN75の最終施設の管理の甘さは終盤の瑕疵になるけど、それまでのリアルな日常描写部分は大変優れているし、エピソードを並行させてちゃんとサスペンスをきかせているところは、オーソドックスで上手い作劇です。早川千絵という人、異様に映画偏差値が高いです。今現在の社会の縮図がちゃんと構築されています。秀逸です。身につまされます。だから、観ていて辛い。

■でも、なんでこのタイミングで観ようと思ったのか?もちろん、河合優実が出ているからですヨ!コールセンターの「先生」と呼ばれる女性を演じて、声だけはクールで落ち着いているのに、表情は今にも泣き出しそうという、難しい演技をさらっと(?)こなしているから、さすがに只者ではない。会話には時間制限があり、志願者が途中で脱落しないように誘導する(エグい)仕事。このあたりは、非常にリアルに描かれていて、ホントに感心します。市役所職員の磯村勇斗河合優実は後に『不都合にもほどがある!』でまさかの共演ですが、完全に本作を踏まえた配役ですね。生活困窮者への炊き出し中の公園にPLAN75のブースが設置されているあたりも、現実の嫌らしさを見事に描きましたよ。ホントにありそうな話で、秀逸です。

■一番議論になるのは、やはり、ラストの決着のさせ方で、なかなかスッキリと腑に落ちる結末は導けないだろう。いや、作劇的にはいろんなやり方があると思うけど、本作の作者は派手なフィクションは選択しない。それはそれで分かるけど、ちょっとテーマ性は甘くなった気はするし、それは勿体ない気もする。観客の解釈の余地は狭めるかもしれないけど、もっと尖ったアイディアなり主張をストレートにぶち込んでも良かった気がする。若いんだから。

■もちろん、実年齢をほぼそのまま晒した倍賞千恵子の覚悟は称賛に値するけど。ホントによくオーダーしたよね。偉いよ!


参考

いちばんに思い出すのは、『ソイレント・グリーン』。でも、こっちの人生の幕引きは悪くないと思うな。
maricozy.hatenablog.jp

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