設定が壮大過ぎて消化不良じゃない?『禁断の惑星』

基本情報

Forbidden Planet ★★★
1956 スコープサイズ 98分 @NHKBS

感想

■宇宙の彼方、アルテア4へ渡った開拓民の生き残りを救出するため捜索隊が到着するが、モービアス博士と娘しか生存者がなかった。万能ロボット・ロビーなど拵えて優雅に暮らしているが、危険だからすぐに帰れとそっけない。それもそもはず、屋敷の地下には先住民クレル人の壮大な超文明が生き続けていた。そのうえ、宇宙船に見えざる敵が侵入して。。。

SF映画の古典だけど、キレイなリマスターで観るのは初めて。かなりキレイなリマスターだけど、合成カットは当然ながら粒状性の変化があるし、それほど高画質には感じられない。お話の構成がちょっと歪で、本当なら姿のみえない敵の破壊工作や殺人事件はもっと早くに提示されてサスペンスを盛るところだけど、そのタイミングが後半に入ってからで、かなり遅い。なぜ遅くなるかといえば、先住民族クレル人の超文明のお披露目がこってりと展開されるため。特撮技術的には興味深いけど、お話としてはそんなに面白い場面ではなくて、単純な説明にしかならないから、少々退屈する。

■第3幕に入って、みえない敵の姿が間接的に表明する場面で、秀逸なアニメ合成が炸裂する。光線銃で迎え撃つサスペンスも効いている。みえない怪物を完全に手描きアニメで描いてしまったので、当時から批判もあったし、実際、造形物を作って合成した方がベターだったと思う。でも、ディズニーアニメテイストの残ったエフェクトアニメはそれなりに味がある。

■でも一番引っかかったのは、すでに2万年前に進化の果に肉体を必要としなくなったとか、想念を実体化できるといったクレル人のえげつない超文明に関する描写が基本的に科白劇で、その文明の装置のビジュアルは映像的な面白みがあるとはいえ、映画で描かれるのは、超絶文明のほんの一端に過ぎず、せいぜいがイドの怪物に留まるということだ。つまり、本当は小説にして、みっちりと書き込めばよかったのじゃないか?という変な印象を持ってしまった。壮絶な設定をちらつかせながら、ドラマ的には消化不良だなあということだ。超絶進化した科学文明は想念を実体化できるから人の無意識領域が醜い怪物を産むというなら、なぜウルトラマンを夢想しなかったのだろうか、とかね。つまり、個人的な趣味としては、なんで怪奇SF映画にしなかったのかと言いたのだ。博士の娘に対する秘められた邪な感情とかも、その方が際立つよね。そんな願いを叶えてくれたのが、のちの『アウター・リミッツ』だったわけですね。

■ちなみに、シェイクスピアの『テンペスト』を下敷きにしたとの解説もあるけど、同じような道具立てのお話はたぶんその昔からいくつもあって、物語の典型的な類型の一つだろうから、対比したところで意義はないと思うけどなあ。だからどうした?て感じです。


参考

この文楽に翻案した『テンペスト』は、なかなかの快作で、再演しないのかなあ。
maricozy.hatenablog.jp

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