言っときますけど、うちは淫売屋じゃなくて、うどん屋ですからね!幻の小品佳作『屋根裏の女たち』

基本情報

屋根裏の女たち ★★★☆
1956 スタンダードサイズ 82分 @アマプラ
企画:塚口一雄 原作:壺井栄 脚本:井手俊郎、木村恵吾 撮影:秋野友宏 照明:伊藤幸夫 美術:柴田篤二 音楽:斎藤一郎 監督:木村恵吾

感想

■とある港町のうどん屋で客寄せにストリッパー崩れの女を酌婦に置いたところ繁盛して、数人の酌婦を置くまでに急成長する。もちろん売春が行われていることは地元では公然の秘密だ。その家の年頃の一人娘の性春と酌婦達のそれぞれの人生模様を織り込んで描く文芸女性映画の小品佳作。こんな映画が存在していたことは今回始めて知りました。まだまだ昔の邦画は発掘のし甲斐があるね。

■でも企画意図としては、日陰の女達の赤裸々な実態をえげつなく描くことにあったようで、木村恵吾監督もそこはグイグイ押す。後年なら五社英雄が撮ってもいいくらいの内容だ。地味ながら演技陣の力演と好演が目立ち、望月優子清川虹子浦辺粂子の三巨塔が揃うだけでもうお腹いっぱい。望月優子はいつもながら悲劇的な日本の母親像を完璧に演じるし、むしろ日本の母親像を彼女が発明してしまったのではないかというくらいに馴染んでいる。ご近所の清川虹子は実はまだ若いのだが、すでに完璧なおばさん演技。浦辺粂子はうらぶれた流しの芸人で、なにかと周囲に辛辣な悪態をついて笑わせる。人のいいばあさんではなく、今回は悪(アク)のほうの粂子である。こんな婆さんは、今も昔も各地に実在します。

■さらに酌婦達の顔ぶれも凄くて、ストリッパー崩れを演じる倉田マユミのやけくそ気味に人生を開き直ったあばずれ演技が実にリアルで凄い。大映の脇役女優だけど、実は映画監督の倉田文人の娘で、なんと文学座出身の生粋の新劇人。とてもそんな生え抜きに見えないやさぐれた生々しさが逆に凄い。ホントの場末の女を連れてきましたくらいの、演技を超えたリアリティがある。一世一代の名演じゃないか。さらに同僚の酌婦の中には若々しい岸田今日子までいて、太もも丸出しでピチピチしているし、太い唇の存在感もすごい。まるで妖怪みたい(いい意味で)。倉田マユミとは同じ文学座出身だから張り合っていたかもしれないね。

■モノクロ、スタンダードの映像フォーマットが完璧に機能していて、低予算作品なのにロケとステージ撮影の照明のマッチングも完璧だし、猥雑な生活感が生々しく造形される。木村恵吾の映画ってはじめて観たけど、粘っこく描くスタイルのようだ。代表作が二度も映画化した『痴人の愛』だしね。でもこれだけの濃厚な演技合戦を捌く手腕は並ではなくて、演技指導が相当に上手い監督だったようだ。

■ちなみにネット上のデータでは音楽が團伊玖磨になっているけど、実際は斎藤一郎なのだ。要注意!

参考

同じようなお話を社会派風に描くと滝沢英輔の『十六歳』になる。脚本も同じ井手俊郎だし、完全に姉妹映画だね。
maricozy.hatenablog.jp

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