熊井啓の社会派サスペンスの原点『アリバイ』

基本情報

アリバイ ★★★☆
1963 スコープサイズ(モノクロ) 92分 @アマプラ
企画:柳川武夫 脚本:熊井啓 撮影:高村倉太郎 照明:河野愛三 美術:木村威夫 音楽:小杉太一郎 監督:牛原陽一

感想

■会計士が自宅で銃殺され、ギフトチェックが消えた。拳銃は立川の米軍基地から元通訳の男が持ち出して捌いたものとわかるが、男はアリバイがあると主張する。犯行の背後に、中国人貿易会社が電機メーカーに仕掛けた手形パクリ事件の疑惑が浮上すると、捜査一課に加えて捜査二課も本部に加わり経済事件に発展してゆく。。。

■というお話で、オリジナル脚本を熊井啓が書いて、警視庁の協力を得て撮影された日活リアリズム路線の一作。企画の柳川武夫は翌年に熊井啓の監督デビュー作『帝銀事件 死刑囚』を製作しているから、本作はその習作という風にも感じられる。実際、熊井啓の社会派サスペンス路線の原点と言える力作で、サービスも満点。黒澤明大好きの熊井啓なので、露骨に『野良犬』を踏襲していて、監督の牛原陽一も脚本にそう書いてあるから、そう撮っただけで、黒澤明の真似じゃないよとボヤいているかも。でも、かなり出来は良いのだ。

■配役も含めて後の熊井啓映画の主要なメンツが揃っていて、足りないのは佐野浅夫くらいという感じだ。中国人貿易会社の陶隆(好演!)に使われる手下の悪党たちのメンツが豪華で、大滝秀治、天坊準、郷鍈治という極悪ぶり。ほとんど『日本列島』と同じに見える大滝秀治の曲者ぶりも圧巻だけど、クライマックスの活劇を郷鍈治が熱く支えるのも見どころ。完全に活劇要員ですね。

■逮捕された拳銃ブローカーを演じるのがおなじみの小高雄二で、当然演技はうまくないのだが、かなりの熱演で、一定の説得力はある。かなり複雑で難しい役柄だが、見てくれを含めて独特の荒んだ感じをうまく生かした演出は褒められて良い。

■ただ、先日観た『七人の刑事 終着駅の女』のヒリヒリするドキュメンタリー・タッチに比べるとモノクロ撮影も良い意味で作り物っぽくて、結構お金がかかっているらしく、キャメラもどっしり構えるし、美術は木村威夫だし、照明も定石通りに決まる。その意味ではかなり贅沢な、結構な大作なのだが、『七人の刑事 終着駅の女』の圧倒的な猥雑さとビビッドな息遣いや、対象を切り取る視線の鋭さに比べると、ずいぶん大人しく感じてしまう。熊井啓が『帝銀事件 死刑囚』で撮影に岩佐一泉を起用して手持ちキャメラを駆使したのも、なんとなく分かる気がする。(『七人の刑事 終着駅の女』は井上莞の撮影ですけど、岩佐一泉は1962年の『人間狩り』が良かった。)

■ちなみに、ロケ撮影のラストショットに封切り中の東宝映画『マタンゴ』のタイトルがデカデカと写っているのも貴重。1963年の8月の暑い盛りに撮影され、そのまま8月25日に公開されたわけだね。撮れたてホヤホヤ!

参考

熊井啓が脚本を書いた(共作)活劇で、これも面白い趣向の小品。
maricozy.hatenablog.jp
ウッシーといえば、これ『紅の拳銃』ですね。やっぱりおっとりした感じですね。
maricozy.hatenablog.jp

© 1998-2024 まり☆こうじ