まさか!?京の都に原爆が!京都帝大原爆開発戦中秘話『太陽の子』

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基本情報

太陽の子 ★★★
作・演出:黒崎博 VFX:オダイッセイ 音楽:ニコ・ミューリー 美術:小川富美男 
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感想

■戦時中日本でも原爆開発が行われていたのは有名な事実で、理科研の仁科研(二号研究)が陸軍の依頼で、京大理学部の荒勝研(F研究)が海軍の依頼で、主に原爆研究が行われたというが、特に後者はなにしろ京大の先生のことだから、もともと海軍に積極的に協力する気はなくて、研究も遅々として進まないし、そもそも既に敗戦ムードと厭戦ムードが濃い終戦間際の京都、電力も資材も資金も枯渇した状況で画期的な研究が進展するはずもなく、敢え無く終戦を迎える。ある意味で、非常に地味な史実である。

■が、同時に非常に興味を引く戦争秘話でもある。いつか誰かが小説を書いたり、映画にしたりするに違いないと思っていたが、ついにNHKがやってくれました。さて、出来具合はどうでしょうか。

■お話は石村兄弟と幼馴染の世津の三角関係をベースにしており、淡い青春映画、恋愛映画としての骨格を有していて、基本的に家族劇として構成される。兄が京大理学部の院生(無給助手?)、弟は出征していて、一時帰郷するが当然ながら戦地で辛い経験をしたらしい。京大の荒勝教授のもとに海軍から原爆開発の依頼が入るが、ウラン235の分離のために遠心分離機を開発するところから難題山積。荒勝教授は新型爆弾製造を超えた原子力利用の構想を持っているらしいが。。。

■弟よりも虚弱ながら研究熱心な理系の主人公が、戦時下の長男として、研究者としての自立の一歩を踏み出すというのがこのドラマのテーマで、実際のところ戦争秘話としての面白みは少ない。そこを期待してみると肩透かしを食らうだろう。実際、わたしもそう感じた。では研究者・科学者という人種の人間性をよく描いたかといえば、これもやや中途半端だ。

■ただ、ラストに至って頼りなげな主人公が研究者・科学者としての業を家族に明かす衝撃的な場面があり、なかなか意表を突いた展開を見せる。しかし、このエピソード、実は荒勝教授の現実の発言をもとにしていることを知って、二度目の衝撃を受けた。きっと作者もこのエピソードに科学者の業が象徴されていることを感じ取って、クライマックスに持ってきたのだろう。科学する心のあり方、その善悪や価値観を超えた、真理探求という知的興味のにみ立脚する、悪魔のような純粋さが、このドラマのクライマックスとして描かれる。これは『ゴジラ』にはじまり『日本沈没』などを経由して作り続けられる東宝特撮空想科学映画の系譜に属する科学に関する映画であり、科学者に関する映画であることが明確となる。

■だがドラマとしてはやはり中途半端で、作劇的には、史実通り科学者の業を吐露するのは荒勝教授で、それに対して主人公が違る判断と選択を行うという展開がクライマックスであるべきだと思うし、この史実(秘話)を描くなら戦後、GHQに接収されたサイクロトロンが分解されて琵琶湖に沈められるエピソードがクライマックスに相応しいと思うのだ。そして、そこには石原裕次郎が歌い上げるバラード調の主題歌が流れ…それじゃ『零戦燃ゆ』ですけどね!

■京大生の兄を演じるのが柳楽優弥なんだけど、少し発達障害的な性格に演じているフシがあり、若干違和感がある。対する正統派日本男児三島由紀夫的に健康で美しい弟を三浦春馬が演じていて、これは見事なハマり方。ちょっと痩せ過ぎな感じと美しすぎる危うさが、当時の兵の人間性をリアルに感じさせる。好演だっただけに、コロナ禍中の自裁はあまりに理不尽だし辛い。
www.nhk.jp


参考

■本作の資料提供・学術アドバイザーは政池明センセイが担当、実質的にこの書籍が原作本と言っても過言ではないはず。

■これも有名な本ですね。如何せん、わが国は巨大地殻変動のメッカなのに、天然資源には恵まれず、実用化は到底無理だった。■ちなみに、今川泰宏監督の鉄人28号の「不乱拳の弟子たち」「京都燃ゆ」の京都編エピソード(伝説の傑作!)は京大での原爆研究をモチーフにしている。かなあ?直接的には「怪奇大作戦」かもしれないが。maricozy.hatenablog.jp
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