基本情報
Atomic Blonde ★★★
2017 スコープサイズ 115分 @DVD
感想
■ベルリンの壁の崩壊寸前の東西ベルリン。暗躍する各国のスパイたちのなか、MI6の女スパイ・ロレーンは最高機密であるスパイリストをKGBから守るために東ベルリンに潜入するが、東ベルリンの責任者パーシヴァルが食わせ物で、誰が味方で誰が裏切り者なのか判然としないまま、東西冷戦は終焉に向かう...
■作品選びと作品に対する取り組みが異様に意欲的なシャーリーズ・セロンが製作も兼ねるだけあって、力作には違いない。原作はスパイ小説ではなく、グラフィックノベルというのも納得。狙いに狙ったいかにも80年代風の原色遣いとネオンが映えるビジュアルで魅了するスパイ活劇だが、お話自体はあまり優れたものではない。ベルリンの壁の崩壊を扱うならもっと面白いお話がいくらでもできそうなもので、どうしても作品の主眼は活劇の方に向かわざるをえない。
■その点は、監督のデヴィッド・リーチを呼んできたかいがあるし、セロンさんもガチガチのアクションがやりたくて仕方なかった模様。デヴィッド・リーチという人はアクション演出の編集に抑制が効いていて、アクションの流れが明瞭に理解できるように撮るので、活劇を観たという満足感が大きい。ことに、ワンカット長廻しの壮絶な殺しあいを室内と階段の立体的な空間を生かしたアクション演出で見せる場面は素直に凄い。ワンカットに見せるために実際は複数のショットを繋いでいるはずだが、カットの接続が非常に自然だし、いかにもワンカットで撮りましたよ、どうだ!という風な押しつけがましいキャメラワークになっていないのも好感が持てる。セロンさんの文字通り体当たり演技、というか文字通り活劇は型の綺麗さ狙いではないリアルな潰しあいを志向しているが、それでも衣装とモデル体型で、血みどろの殺戮戦もファッショナブル!痺れる!
■怪しい相方となるのがマカヴォイさんで、近年すっかりマッチョな危ない男を演じるのが定番ですが、ここでも好演。しかし、彼のドラマが十分に描かれないので、ラストの印象的な告白がいまいち感動的にならないなあ。残念。勿体ない。
■トニー・スコットとかリドリー・スコットが撮ればもっとドラマ寄りで大人を堪能させる映画にもなっただろうと思われるが、とにかくセロンさんと彼女を盛り立てる敵役の男優さんたちの凄絶アクションを観るだけで感動するし確実にもとはとれる映画なので、これで良いのだ。
■むかし、むかし、近年はテレビドラマが主体の黒沢直輔がにっかつで撮った『夢犯』というハードボイルドなロマンポルノ映画があって、主演の赤坂麗がクールで魅力的だったし、石井隆ならではの哀切なラストがホントに忘れられない名作なわけですが、あれをちょっと思い出したなあ。映像のルックが似ているんだな。なにしろホントの80年代映画ですからね。夜の濡れた情景、ネオンの妖しい光、そして志水季里子とのレズシーン...