ハートキャッチプリキュア! ★★★★☆

■なんとなくダークプリキュアのビジュアルにピンときて観始めたわけですが、まあキュアムーンライトダークプリキュアに敗れるところから始まる怒涛の展開で、一気にハートをキャッチされた訳です。馬越嘉彦のキャラクターデザインが兎に角個人的に好みということが大きいですね。しかし、これは並外れた傑作シリーズだったわけです。

■引っ込み思案な少女がプリキュアに選ばれて自分の殻を破ってチェンジしたいと願うようになるという表のお話に対して、しかし、実質的な主役は月影ゆりことキュアムーンライトであるという大胆で意欲的な構成で、大人の心をくぎ付けにする。ダークプリキュアキュアムーンライトの因縁の対決がシリーズ全体を牽引し、ブロッサム、マリン、サンシャインの女子中学生3人娘の姉であり憧れの先輩であるキュアムーンライトがとことんまで過酷な試練を課される物語として構成されている。シリーズ構成は山田隆司で、脚本は栗山緑名義で執筆し、米村正二がサブで参加するが、シリーズ構成の堅牢さと、梶原一騎なみの試練につぐ試練を繰り出す熱い展開に燃え、未就学児童にいったい何を見せるつもりなのかという大人過ぎる哀切のメロドラマを終盤に向けて繰り出す。その熱量の凄まじさは、各パートがお仕事を超えた思いのたけをぶち込んだとしか思えない。スタッフみなが、月影ゆりの物語に共振し、ムーンライトの、ダークプリキュアの宿命に全てを捧げていたに違いない。

■47話後半からのムーンライトとダークプリキュアの最期の激突の超絶アクション作画、遂に明かされるサバーク博士の正体、過酷すぎる月影ゆりの宿命、そして、48話でのダークプリキュアの出生の秘密、サバーク博士の残酷すぎる選択に奈落の底まで突き落とされる月影ゆりという、作劇としては絶好調、1年のシリーズのクライマックスにふさわしい劇的のうえにも劇的な大河ドラマを見せつけるわけだが、まあ、月影ゆりが不憫過ぎる辛すぎる展開。よくもまあ、未就学児童にこんなドラマ見せたものだ。全ての不幸の原因はサバーク博士(の正体)の心の弱さであるという結論になっていて、他の悪の幹部たちは素体の人間に戻っているのに、サバーク博士だけは明確に死亡するのも作者の意図を的確に示している。実際、サバーク博士、サイテーの男なわけです。そのサイテーさは、『浮雲』の森雅之のよう。実際、実写であれば、昔なら森雅之だろうし、今なら西島秀俊のような人非人な色悪を演じられる役者が相応しいだろう。他に女を作って出奔、さらに娘まで設けて溺愛し、本妻の娘を蔑ろにするというサバーク博士が救われる慈悲はこの広大な宇宙にも存在しないのだった。

■そして48話後半で復讐心と憎悪から黒幕デューンにぶつかろうとする月影ゆりを必死に諫めようとする主人公つぼみの場面が、表の主役と裏の主役がともにクライマックスを迎える本シリーズのクライマックス中のクライマックスで、涙腺が瓦解する瞬間。名シーン中の名シーン。史上最弱のプリキュアと呼ばれたブロッサムが、1年間でここまで成長したことをきちんと示し、仲間を得て、仲間に支えられることでムーンライトも救われたことを名演出で描いた神懸った瞬間だ。これを本放送で観られた人は幸せ者だ。これをリアルタイムで観ていた幼稚園児たちは、成長して改めて自分がどんな凄いドラマを観ていたのかを再認識することになるに違いない。シリーズ演出は長峯達也という人。最終的に決着は”こぶし”で付けるという硬骨漢だ。

■そのほかにも23話のキュアサンシャインの名乗りの場面は名シーンだし、33話、34話のキュアムーンライト復活、妖精コロンとのふたたびの別れに揺れる月影ゆりの心理描写とか、37、38話のプリキュアたちの通過儀礼とか、41話のアクション演出はなぜか細田守路線に属する超絶痛快な名シーンでエンドレスで観ていたいし、と見どころ満載なシリーズ。これはブルーレイで手元に置いておきたい気がするなあ。というか、キュアムーンライトダークプリキュアメインで宝塚歌劇版を製作してほしいので、是非お願い!

馬越嘉彦 東映アニメーションワークス

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馬越嘉彦アニメーション原画集 第一巻

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