マイマイ新子と千年の魔法 ★★★★

マイマイ新子と千年の魔法
2009 ヴィスタサイズ 93分
DVD
原作■高樹のぶ子 脚本■片渕須直
総作画監督■辻繁人 美術監督■上原伸一 
音楽■村井秀清、Minako "mooki" Obata
監督■片渕須直

■昭和30年の山口県防府市の麦畑の広がる田舎町(ただし、千年前は国府)を舞台に9歳の新子が忘れがたい友達たちとの交流と空想の千年前を交差させて描き出したマジカルな優秀アニメ。マッドハウス製作なので技術的にはもちろん高度だが、片渕須直の脚本も相当に高度で、すっかり感心した。

■いわば昭和ノスタルジー物の企画であるのだが、千年前の友だちがなくて鬱々している姫を新子の空想として描き出し、並行してふたつの時代の友だち関係が描かれるのが非常にユニークでマジカル。田舎町の自然の中での遊びやしぐさが悉く昭和世代のおっさんの心と記憶を直撃するおっさん殺しの映画でもある。麦畑や桑畑の中を走る水路をめぐって物語は展開し、千年前とも繋がることになる。思えば、個人的にも子供時代の記憶は水路を中心として編まれている。そのことは昔のこどもにとっては案外一般的だったのかもしれないと思わせてくれる映画でもある。桑畑の水路をせき止めて小さなダムを作ってしまう様子など、素晴らし過ぎて、もう観ていられないくらいに眩しい。端的に言って、この映画は水路の映画である。

■新子を演じる福田麻由子の演技が非常にナチュラルで、荒削りな感じもリアルなのがこの映画の説得力を増している。ほんとに昭和30年の田舎の子供っぽさを自然に納得させる配役で、これは見事。さらに音楽が秀逸なのにも感動する。コトリンゴってはじめて知ったけど、良い趣味だなあ。片渕須直のセンスの良さがあらゆる局面に全面的に展開された、片渕須直の見本市という作品ではないか。最新作の『この世界の片隅に』が楽しみで仕方ない。

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