ハミングバード ★★★☆

これが本作の名場面!

Hummingbird
2013 スコープサイズ 100分
DVD

■『アドレナリン』とは打って変わって、地に足の着いた活劇映画。監督、脚本のスティーブン・ナイトは王道のアクション映画のフォーマットに、イギリスの階級社会の苦渋を上手く盛り込んで、地味ながら心に染みる映画を撮り上げた。しかも撮影がクリス・メンゲスで、ケン・ローチの『ケス』を撮った人。ある意味、ケン・ローチがアクション映画を撮ったらどうなるかという作風の映画である。

ジェイソン・ステイサムが軍事裁判から逃げ出した元兵士で、今はホームレスというところからお話が始まり、ワケアリな修道女と知り合って、互いに贖罪を胸に秘めながら、最後にはそれぞれの道に別れてゆくという「ムードアクション」。イギリスの労働者階級出身のジェイソン・ステイサムとしてはまさにピッタリなはまり役で、過不足が無い。ロンドンの底辺社会を舞台として、何でも上空から監視しているハミングバード(兵器)に、逃れられない神の視点を仮託して、戦場で民間人を虐殺した過去から逃れられない脱走兵士の魂の彷徨を描き出す。社会の底辺で生きる者に寄り添いたいという強い意志を感じさせる映画であり、ジェイソン・ステイサムの佇まいが実直なリアリティを生んでいる。

■娼婦殺しの復讐を遂げたジェイソン君が修道女のもとに訪れる場面がなんとも素晴らしく切なくて秀逸。どうやって現われるかと思いきや、酒飲んで道端に寝てるんですよ。素面では無敵の殺人マシーンになってしまうので、素面ではいられない男の哀しい姿が切々と胸を打つ。クリス・メンゲスの撮影も全般に秀麗で、非常に素晴らしい。まあ巨匠ですからね。


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